生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

希少糖生理活性の作用機構と生物生産場面での利用

(香川大学農学部 秋光 和也)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、香川大学が独自に開発した希少糖生産技術を利用して、希少糖類の持つ生理作用を農業生産の場に効果的に適用することを目指している。中間評価時の到達目標は、希少糖の中のD-プシコースとD-アロースの作用機構を明らかにし、それらを農薬及び肥料養液素材として実用化する可能性を検証するとともに、他の希少糖生産システムを確立して有用な生理作用を見い出すことであった。この目標は、研究全体として概ね達成されており、得られた研究成果には基本的に高い新規性と科学的価値が認められる。また、これらの成果は、希少糖の産業的利用の可能性を示すとともに、植物生理の機構解明に重要な鍵を提供している。今までに2件の特許申請をするなど、研究成果の実用化に努力していることもうかがえる。
ただし、両希少糖の作用は必ずしも低濃度で特異的に起こるわけではないことが明らかになったし、その作用への関与が指摘された遺伝子の機能については、今後、遺伝子導入植物体を用いて検証する必要がある。また、両希少糖の農業上の利用可能性に関しては、必ずしも期待どおりのデータが得られているわけではない。中間評価の機会に、今までに得られた研究成果を客観的に評価し直し、研究目標が達成されるよう努めることが必要である。併せて、希少糖合成・生産関連以外の研究成果に関する論文発表・情報発信をより活発に行うことも求められる。
今後、希少糖のコスト、市場における優位性などが課題として残されているが、糖質工学という先端分野における産業創出プロジェクトとして、今後の進展が期待される。

(2)中課題別評価

中課題A「希少糖のシグナル活性に関する研究」
(香川大学農学部 秋光 和也)

中間評価時の到達目標は、D-プシコースとD-アロースの作用機構を分子生物学及び生理学的なアプローチにより明らかにするとともに、他の希少糖の生産システムを確立し有用作用の選抜を行うことであった。両希少糖による遺伝子発現解析に基づいて、耐病性誘導と生長調節作用に関わる遺伝子の候補を見い出し、植物ホルモンのシグナル伝達系との関わりの可能性を示した。
同時に、他の多くの希少糖生産システムを確立した。このような成果には高い科学的価値が認められるし、特許申請や成果発表も活発に行われており評価できる。ただし、両希少糖の作用は必ずしも低濃度で特異的に起こるわけではないことが明らかになったし、特定された遺伝子の機能の検証も今後の課題である。今までに得られた研究成果を客観的に評価し直し、研究の方向性を定めることが重要である。

中課題B「希少糖作用の農業への用途開発を目指した試験研究」
(三共アグロ(株)研究開発部 田中 啓司)

中間評価時の到達目標は、D-プシコースとD-アロースの農薬としての利用可能性の検討であった。この研究項目は期間中に概ね完了し、新規物質の実用化の検討という観点から一定の科学的価値があると認められる。また、他の希少糖の中から、D―タガトースがキュウリべと病等の防除に効果があることを見い出したことは、評価できる。ただし、D-プシコースとD-アロースについては、芝草に対する一定の抑草効果は認められるものの、作物に対する耐病性誘導に関する結果は、期待したほどのものではなかった。今後は、D-タガトースの防除効果に力点を移すなど、研究の方向性を検討してほしい。また、情報発信をもっと積極的に行うことが期待される。

中課題C「希少糖の肥料養液素材としての実用化を目指した試験研究」
((株)四国総合研究所バイオ研究部 石田 豊)

中間評価時の到達目標は、D-プシコースとD―アロースの肥料養液素材としての利用可能性の検討であった。この研究項目は期間中に概ね完了し、新規物質の実用化の検討という観点から一定の科学的価値があると認められる。ただし、研究結果を見ると、作物に対する効果はそれほど大きくないし、農業上大きな貢献ができるかどうかは定かではない。両希少糖が作用を誘導するのに必要な濃度等の条件も十分に考慮して、実際にこれらが農業現場で実用化できるか冷静に評価するとともに、研究目標の絞り込みを行っていく必要がある。また、情報発信をもっと積極的に行うことが今後の課題である。