生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

植物の「みずみずしさ」の分子機構解明とその応用のための基盤研究

(岡山大学資源生物科学研究所 且原 真木)

評価結果概要

(1)全体評価

中課題Aと中核になる中課題Bとの健闘で全体として良く進んでいる。また、国際会議の開催の中心的役割を担い、情報発信にも尽力している。オオムギ、イネ、トマト、アサガオなどで、水と関わりが深いアクアポリン分子種の特定をほぼ終え、後半のそれぞれの遺伝子を制御した植物体の作出と、その特性解析に向けた準備がほぼ完了した。総合的に見て、順調な成果である。後半の主題となる形質転換についても、計画通り進んでいる。その中で、アクアポリンの水吸収の機構、あるいは、ゲーティング機構については、あまり順調に進んだとは言えない。アクアポリン分子のみずみずしさとの関わり以外の機能についての研究も行われており、それらに新規性があることは十分認められるが、やや散漫になっており、現状のままに研究を進めると、散逸的になり過ぎる懸念がある。今後は、本プロジェクトによって供給される研究資源を特定の遺伝子や植物種へ集中させ、計画に沿って研究成果を上げられるようにするべきである。

(2)中課題別評価

中課題A「イネ科植物のアクアポリンの多彩な役割と制御機構の解明およびその応用」
(岡山大学資源生物科学研究所 且原 真木)

総合的に見て、計画通りの進行状況である。これまでオオムギの遺伝子解析を中心に進めてきており、着目すべき遺伝子を見いだすに至っている点は評価される。オオムギの全アクアポリン遺伝子の同定、塩ストレス応答の定量解析など、オオムギのアクアポリン遺伝子の解明と発現解析は、イネ科植物のアクアポリン遺伝子の基礎的なデータとして、イネとの対比で重要である。活性制御についてのヘテロ4量体が関わっているという知見も、アクアポリンの機能等を理解する上で、重要である。イネのT−DNA挿入変異体の解析も進んでいる。今後は、オオムギのアクアポリンを研究する意義づけをより具体的に明確にし、オオムギのクローンについて得られた結果の中から特に価値の高いものを見極め、成果につなげていくことが重要である。

中課題B「アクアポリン分子種の分子機能解明と園芸作物への応用展開」
(名古屋大学大学院生命農学研究科 前島 正義)

木本、草本の果実、花き類、シロイヌナズナなどを対象にアクアポリンのプロファイル作成、局在などが明らかにされ、形質転換植物の作出に既に着手し、今後の明確なタイムテーブルを念頭におきつつ研究を推進している。今後のトマトとアサガオの形質転換植物の結果が待たれる。シロイヌナズナの変異株について得られている成果をより発展させることで、独創度の高い研究になる可能性がある。この中課題の中心課題は、これらの知見をベースに、植物の水吸収などの機能を改変して、有用な植物を作ることにある。アサガオや、トマトの系での着実な成果は、今後、植物の水利用を改変するという新たな試みに対して一定の成果を上げるであろうと期待される。

中課題C「植物および微生物のアクアポリンのゲーティング機構の解明と応用」
(秋田県立大学大学院生物資源科学研究科 北川 良親)

総合的に見て、努力はされているが、計画通り進んでいるとは言いがたい。中間目標であるイネアクアポリンの構造解析はこの中課題の最も大きなテーマであるが、現時点での進捗状況からして最終目標として達成することは難しい。耐冷性イネの作出は予想外とも言える成果であり、イネの真の耐冷性の獲得につながれば、イネ育種の新しい方向性として、評価されるであろう。今後の発展が期待される。こうじ菌のアクアポリン分子については、水吸収には関わりがないという結果は、それ自身意味があるデータではある。本中課題については、成果の見込まれる研究(形質転換イネ)に絞り込むとともに、ほかの中課題との連携をより密接にしてプロジェクト全体に貢献できる研究を進めていくことが重要である。

中課題D「植物の給水と保水の分子メカニズム」
(農研機構東北農業研究センター 村井 麻理)

計画に沿って、順調に進んでいる。イネのアクアポリンの発現・機能解析に特化しているので、研究の流れも分かりやすく、成果も理解しやすい。水分吸収と窒素吸収との関連など、新しい興味深い知見も得られているので、その成果が、イネの育種に利用可能であることを期待したい。
それらは形質転換チームとの連携でなされることであろう。イネの低温耐性とアクアポリンの機能について、根の組織の内皮での特徴的な局在性、水透過性、水ストレスに対するアクアポリンの応答など、興味深い成果が得られている。それらを原著論文としてとりまとめ、発表する努力をされることを期待する。