生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用

(九州大学大学院農学研究院 吉国 道庸)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、長年の懸案であったヒトデのGSSが研究代表者らによって偶然にインスリン族リラキシン亜族に属するペプチドと同定されたことから、このリラキシン構造の特色を手掛かりに、カキやエビから同様なペプチドを得て種苗生産に生かそうとするものである。解析方法としてEST解析を主体に行っているが、中間評価時までにいくつかのEST解析から候補遺伝子はあがっているが、成果はみえていない。しかし、EST解析ではなく、卵成熟や放卵誘起活性を指標とする探索法により、マナマコにおいて卵成熟や放卵を誘起する活性物質(クビフリン)を同定し、合成したことは大きな成果である。また、このクビフリンは当初予想していた生殖腺刺激ホルモンよりも上流に位置すると推測されるものであり、さらに、クビフリンの活性を阻害する内在性の阻害因子の存在が明らかになるなど、海産無脊椎動物の生殖制御ホルモンの研究において、今後大きな進展を予測させるものとなっており、科学的価値という点で大いに評価できる。
マナマコにおいてはまったく構造の異なるペプチド(クビフリン)が極めて低濃度で活性を示すことが明らかとなり、その作用解析からさらに下流で機能する活性物質の存在が示唆されており、今後の研究によって作用機構の全貌が明らかにされるものと思われる。同じEST解析からは、マナマコ、アカウニ、マガキにおいてインスリン様ペプチドや低分子神経ペプチドの存在が明らかになり、一定の成果が得られつつある。生命科学の大きな流れとしてゲノム情報の利用による解析手法が大きくなっているが、この研究を通してあらためて機能からのアプローチが直接的であり、極めて有効であることが示されたと考える。クビフリンとその下流の二次物質(COS)の発見ならびに低分子神経ペプチド遺伝子の発見は、今後の進展に期待をいだかせる。

(2)中課題別評価

中課題A-1「水産無脊椎動物生殖腺刺激ホルモン遺伝子のEST解析とクローニング」
(基礎生物学研究所 大野 薫)

当初の予定に従ってEST解析は進行しているようであるが、他の中課題との連携による成果が見えるところまではまだ到達していない。解析からは、マナマコ、アカウニ、マガキにおいてインスリン様ペプチドや低分子神経ペプチド遺伝子の存在が明らかに出来たことは今後の解析の基礎を作ったが、配列データから機能にまで繋がっていない。残念ながら、EST配列情報に基づいて化学合成したリラキシン族ペプチドには活性は確認されなかった。おそらく低分子神経ペプチドに関しても同様の手法でESTから解析した配列を有するペプチドを合成して活性を見ることになろうが、今度はアッセイ系のほうが問題である。他の中課題との連携とこれまでにはないアッセイ法も検討する必要が出てくるだろう。機能に基づいた活性物質の探索とはまったく異なる方向からの物質探索になるが、その有効性を示せるかどうかが問われる。今後は低分子ペプチドも視野に入れ後半2年の奮起が必要である。

中課題A-2「水産無脊椎動物生殖腺刺激ホルモンのペプチドーム解析と人工ホルモンの合成」
(九州大学大学院農学研究院 吉国 道庸)

期待に反して、化学合成したインスリン族ペプチドは活性を示さなかった。この結果は2通りの解釈が可能である。第一は、合成自体がうまくいっていないために活性が出ない、第二は本当に活性がないという可能性である。合成に関しては問題点を洗い出して、うまく合成品を調製し、活性に関する結論を出す必要がある。
Peptidome解析が遅れており、代わって生物活性を指標にして精製して5アミノ酸残基からなるペプチドが単離同定できたことは大きな成果である。これはすでに10年以上も前に報告された神経ペプチドであるが、新たに低濃度での放卵、放精活性を認めたことは評価できる。また、アミノ酸の置換によって高活性のペプチドが得られたこと、およびC末端のアミド構造は活性にとって重要であることは応用への道を考えた時に重要な情報となる。クビフリンと同様に、機能から新規活性物質が発見される可能性は高く、この中課題が本研究プロジェクトの中心になると思う。クビフリンは低分子ペプチドであり、ESTやPeptidome 解析では見落とされる危険性があった。このことは、EST、Peptidome解析に加え生物活性による解析も重要であることを物語っている。A-1 との連携をさらに密にして低分子ペプチドの検出にも心がける必要があろう。

中課題B「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの生理作用解析」
(水産総合研究センター養殖研究所 山野 恵祐)

先述の様に、中課題A-2との連携によってクビフリンを新規活性ペプチドとして同定したことは、本研究課題のこれまでの中心的成果になっている。この研究例を典型にして、さらに他種からも活性物質が得られることを期待したい。また、クビフリンについては、その作用解析から下流の二次的な機能分子の存在が推定されているので、これまた中課題A-2と連携して同定し、マナマコにおけるGVBDから排卵・産卵に至る新しい制御系の全貌を明らかに出来ると期待される。同様の意味で、中課題A-1との連携が必要であるが、これまでのところウニのEST配列情報をもとに化学合成したインスリン様ペプチドの活性は少なくとも現在出来るアッセイ系では活性を証明していない。
生殖系に本当に関与していないかどうかは遺伝子発現解析等によって検討していく余地は残されている。中課題A-2から提供されたクビフリン、GSSホモログペプチドで卵成熟ホルモン作用ならびに生物検定法の確立を目指し、中間時点までにマナマコ、クビフリンの検定を終え、現場レベルの投与試験まで進展しており水産現場への応用に期待が持てる。その他、マガキでは排卵誘導活性の検定法を確立したがクルマエビではまだ確立できていないので早急に検定法を確立するよう努力してほしい。