生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

耐熱性発酵微生物の「耐熱性」分子機構の解明と発酵産業への利用

(山口大学農学部 松下 一信)

評価結果概要

酵母や酢酸菌などの有用発酵微生物は一般に低温(15~25?C)を好むことから発酵生産の温度制御が非常に重要となっており、発酵産業では適切な温度制御のため多大なエネルギーが使用されている。このため、より高温に適応した耐熱性の発酵微生物の分離もしくは遺伝子工学的開発が求められている。本研究では、常温菌である酵母・大腸菌の「熱耐性」機構の解析、さらに耐熱性を有する酵母や酢酸菌の耐熱性機構を解明し、その成果を利用した高温発酵系の開発を目的とした。
これまでの研究で、耐熱性機構解明のためS. cerevisiaeや大腸菌破壊株コレクションを用いて、熱耐性(熱ショック応答)遺伝子リスト、耐熱性遺伝子リストを作成したことは評価ができる。ただ、耐熱性分子機構の解明と醗酵産業への利用へと繋げるにはまだ距離があると思われる。
また、酢酸菌、Zymomonasについて、ゲノム解析を進めており、いろいろの情報が蓄積されつつある。これらの研究の結果、酢酸菌等でトランスポゾンやマイクロサテライトが多く存在すること、高温増殖菌で複製終結点に遺伝子の大きな欠失を見い出すなど興味深い結果も得ている。発酵系の開発ではタイで採取された高温酢酸菌から耐熱性菌を分離し、遺伝子操作によって副生物の生成がなく選択的に5-ケトグルコン酸を高温で生成する株を得るなどの成果も得られており評価できる。
タイで採取された酵母Kluyveromycesに着目、研究を進めて45°Cでの高温エタノール発酵株を得ている。また、Kluyveromyces酵母に関して、形質転換系、栄養要求性株の単離と相補遺伝子、マーカー遺伝子の整備などにより形質転換系をほぼ確立したことは評価できる。
本課題の目的の一つは、耐熱性の微生物を用いて発酵するために冷却水量を軽減し、ひいてはコスト削減に貢献することであるが、この点については定量的コスト計算が必要であろう。
本課題では特許は多く出されているが、発表論文は少なく、今後は得られた研究成果をできるだけ論文にまとめて発表することが望まれる。