生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

超微量安定同位体検出技術を応用した農水産物の新トレーサビリティ分析システムの開発

(首都大学東京大学院理工学研究科 伊永 隆史)

評価結果概要

科学的に食品の原産地を判別する技術を開発することは国内外の原産地偽装を防止し、原産地表示に対する消費者の信頼性を高めること、また国内生産者を保護するという緊急かつ社会的要請の高い研究である。
本課題は、対象をコメに絞り込んで、国産玄米1700点を系統的かつ精密に試料を採取し、着実に安定同位体分析を行い、窒素・酸素・水素の軽元素同位体組成はその原産地を反映し異なっていることを明らかにした。これにより、軽元素同位体情報が産地判別技術に有用であることを初めて示して、地球科学的視点の軽元素の安定同位体比解析を産地判別に導入し、新しい手法として期待できる科学的な成果が得られた。そこで、これまでの無機元素組成及び重元素の同位体比による産地判別法に、今後加わるべき必須の技術になりうる優れたものと判断する。コメから、牛肉とウナギへとやや分析対象食品が拡大しすぎており、研究期間内に本研究で開発した研究手法の問題点・課題を十分に達成できるかという心配は残るものの、当初計画通りに進んでいると判断できる。
これまでの研究により、軽元素同位体を用いた産地判別技術に関してその実用性を科学的データに基づき示すことに成功した。しかし、その一方で産地判別の正確さ・精度を高め、産地判別法としての実用性を高めるには、さらなる基礎データの取得が不可欠であることも明らかとなった。分子タグを利用した新たな手法開発にも積極的に取り組んでおり、学術的展開や新たな産地判別法としての応用も期待できるが、限られた研究期間内で軽元素同位体を用いた産地判別法で最大の成果を上げることを考えると、今後は研究を集約することを考えるべき時期である。また、得られた研究成果を引き続き原著論文として公表することに努めるとともに、プレスリリースを活用するなど、国内の生産者、消費者への啓蒙・広報活動にも積極的に取り組むことを望む。