生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

「トランスジェニックニワトリ作製のための生殖工学的基礎研究

(名古屋大学大学院工学研究科 飯島 信司)

評価結果概要

鶏卵には多量のタンパク質が分泌されるから、目的遺伝子を導入され、その産物が鶏卵中に分泌されるようなニワトリの系が作出されれば、恒常的にその産物が得られることになり、医薬生産技術としての活用を始めとしてその意義は大きい。
本研究では、安全であるが染色体への組み込み効率の低い遺伝子の化学的導入法に、レトロウイルスのもつインテグレーション機能を付与した両者の長所を合わせた機能をもつ遺伝子導入構造体(人工ウイルス)を設計し、遺伝子導入の効率を上げ、さらに従来のウイルスベクターでは不可能であった高分子タンパク質の生産を企図しており、研究目的は明確である。
全体的に研究は着実に進展していると言えよう。人工ウイルスの作出については、未だ所期の目標レベルに達してはいないが、12%の効率とは云え、リポフェクション法によって培養細胞への遺伝子挿入を実証しており、さらに、始原生殖細胞に従来法のウイルスベクターにより遺伝子を導入しトランスジェニック(TG)ニワトリの作出に成功していることは、開発中の始原生殖細胞の実用的可能性を示すと共に、開発中の技術を総合して得られる最終的成果に期待を持たせるものである。
本課題では、当初、基本的な材料の取得、現象の把握や解析方法、基本技術の習得に検討の多くが費やされてきたように思われるが、最近、人工ウイルスによる遺伝子導入が可能となり、また従来のウイルスベクターを使用した方法ではあるが始原生殖細胞への遺伝子導入による生殖系列キメラニワトリ作製が可能となっており、レトロウイルスインテグラーゼの機能解析に関する研究成果とともに着実に研究の進展が見られてきている。しかし、ウイルスベクターにより導入できないような巨大遺伝子を始原生殖細胞へ効率的に導入するためのキャリヤー設計、始原生殖細胞の長期培養、キメラ率の向上など検討すべき課題はまだ多く、最終目標を達成するためにはさらなる努力が必要と考えられる。目標達成のための必要な課題を重点的に行えば、総合的にインパクトのある成果が得られるものと期待される。
本研究は、計画段階でTGニワトリの作出効率、導入遺伝子のサイズ、生産分泌されるタンパク質の量などについて、明示的な提案がされており、それらを前提に採択された課題であることから、重く受け止めていただきたい。「人工ウイルス」開発の必然性は、「自然ウイルス」ベクターでは成し得ない、10-20Kb程度の大型の遺伝子が組み込めることが、大きな拠り所になっているから、効率、量の重要性も然ることながら、実際に大型の遺伝子組の込み実験を最優先課題として取組んでいただきたい。