生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

標的特異的LINEを利用した新規トランスジェニックツールの開発

(東京大学大学院新領域創成科学研究科 藤原 晴彦)

評価結果概要

研究代表者らは、従来のトランスジェネシス(DNA型トランスポゾンやレトロウィルスを使う)方法の欠点を改善する方策として、標的に特異的に転移するLINEと、広範囲な生物細胞に対して、細胞毒性をもたずしかも効率的に導入できるウィルスベクターを組み合わせることによる、新たなトランスジェネシス方法の確立を目指した、独創的な研究に着手している。
研究代表者らは、これまでの研究で新規メダカLINE R2の発見、改変型ウィルスベクターを用いた昆虫個体・昆虫細胞形質転換法の開発、R2及びSART1を用いたトランスジェニック昆虫の作製・昆虫細胞への遺伝子導入法の開発、R2を用いたトランスジェニックゼブラフィッシュの作製、R2及び改変型ウィルスベクターを用いたヒト細胞への遺伝子導入に成功するなど、多くの成果を得ている。また、その成果を着実に論文発表、学会発表している。さらに、この研究の過程でさらなる新規LINEの発見、トランス相補型転移を利用した遺伝子導入法、ゼブラフィッシュ個体への改変型ウィルスベクターの感染など興味深い結果を得つつある。これら研究には随所に創意工夫・新しい発想がみられ、非常に独創性が高い。これらのことから、研究は当初の計画をうわまわって順調に進捗していると判断できる。
本研究課題の最終目標は、外来遺伝子の発現が観察されるトランスジェニック個体を創出することにあり、この問題にチャレンジする研究代表者らの研究は高く評価できる。研究代表者らは、これまでの研究でLINEを様々な生物種において転移させ、トランスジェニック個体あるいは細胞を作製することには既に成功している。最大の課題は、そのようにして導入された遺伝子を発現させることであり、正面からこの課題に取り組もうとしている。容易ではないことが推察されるが、これが成功すれば、画期的な標的特異的な遺伝子導入法の確立になる。また仮にそれが成功しなかったとしても、その研究過程で、標的特異性を決定するメカニズム、rDNAをコードする領域の特異な遺伝子発現制御に関する知見が得られ、分子生物学の発展に寄与するであろう。
研究代表者らは、遺伝子発現を確認できるトランスジェニック個体を、昆虫、魚類において作製すること、およびヒト細胞においてはLINEの挿入部位を厳密に確認できる方策の確立をも目標と掲げており、3つを同時並行的に推進する計画である。昆虫においてはこれまでのLINEの転移効率のアップや配列特異性を高められるかどうかの検討に加え、これまでのLINE以外にR7, R8, Kibiも候補として検討を加える計画であり、ゼブラフィッシュにおいては有力な候補R2OI以外に上記のKibiやR8を検討するなど、全体として盛りだくさんな研究計画となっている。
研究員が更に充足されるのであれば問題ないかもしれないが、現状のままであるならば、3つの計画を同時並行的に進めていく過程で、目標達成が確実となりそうな課題について重点的に研究を進めた方が良いかもしれない。