生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

機能微生物ゲノミクスによる農耕地からの亜酸化窒素ガス低減化」

(東京大学大学院農学生命科学研究科 妹尾啓史)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究の目的は、亜酸化窒素ガス(N2O)除去能力の高い土壌微生物を利用して農耕地からのN2O発生量を低減化することにある。これまでに、1)水田あるいは転換畑でのN2O発生及び除去に寄与する脱窒菌群を明らかにし、2)不均衡進化による変異導入法及びプロモーター組換えによりダイズ根粒菌N2O還元酵素(Nos)強化株を作製、実験室レベルで根粒から発生するN2Oを強力に還元することを見いだし、3)現場の水田土壌ではN2O発生が極めて小さく、ダイズ畑では多量のN2Oが発生すること、また、その発生特性は土壌型により異なることを見いだし、科学的並びに今後の応用展開を図る上で優れた成果を上げている。この他に、新奇脱窒遺伝子配列を持つBradyrhizobium属細菌を単離するなど多数の科学的な水準の高い発見が相次ぎ、当初目標を上回って研究が展開されている。また、研究室レベルの研究結果と現場圃場で測定した結果とが一致したN2O発生現象を見いだし、極めて科学的価値が高い。
今後の研究においては、一方でゲノム解析のような個別微生物株に対する研究の深化と、現場圃場における実証的研究という極端な展開が考えられるが、微生物学および環境科学の両面で当初目標の達成に向けて急速な研究の進展が期待できる。なお、野外での実証試験は、組換え微生物および微生物資材に関する法令等を遵守し適切に進めることが求められる。

(2)中課題別評価

中課題A「水田土壌微生物コミュニティのN2O除去機能の解明と低減化への利用」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 妹尾 啓史)

SIP(Stable Isotope Probing)法によるN2O発生及び除去能を持つ機能性微生物の解析とFSC(Functional Single Cell)分離法による機能性微生物の解析から、水田および転換畑でのN2O発生及び除去に寄与する脱窒菌群を明らかにできた。これらは、科学的並びに今後の実践的な面で特筆すべき成果である。さらに、畑土壌でのN2O除去微生物として利用可能な脱窒菌を選抜した。この過程で、新奇脱窒遺伝子配列nirを持つBradyrhizobium属細菌を単離するなど、科学的に興味深い事例を多数見いだした。
中間評価までに見出された新奇現象の解析を継続すると共に、中課題C(農環研チーム)の圃場で予定する、N2O除去型脱窒菌コミュニティーの活動環境をダイズ畑においてどのように維持するかの実証的モデル試験に非常に大きな期待がかかる。

中課題B「根圏微生物コミュニティのN2O発生メカニズムの解明とその低減化」
(東北大学大学院生命科学研究科 南澤 究)

不均衡進化による変異導入法等により、根粒菌におけるN2O還元酵素の強化株を得て、実験室レベルで根粒から発生するN2Oを強力に還元する結果を得た。この過程で、SNP解析からダイズ根粒菌の脱窒制御過程に従来知られていなかったプロセスが存在することが示唆されており、科学的価値が高い。
ダイズ栽培期間中の根圏及び根粒からのN2O発生機構をほぼ明らかにした点は、科学的に高水準であるだけでなく、今後の圃場レベルの研究展開におけるターゲットを整理できたという点で注目に値する。一方、全国のダイズ根粒菌のN2O還元能と土壌型の関係から、クロボク土壌ではN2O発生型根粒菌が卓越することを見出し、微生物の生態面で非常に興味深い知見が得られている。

中課題C「N2O発生の要因解析と微生物コミュニティによるN2O発生抑制技術の評価と実証」
((独)農業環境技術研究所 秋山 博子)

ダイズ畑において施肥直後、開花期、登熟期の3つの時期に大きなN2O発生がみられることを見いだした。これら野外で得られた現象は、中課題Bの実験室レベルで得られた開花期と登熟時期のN2O発生現象と一致しており、極めて科学的価値が高い。また、転換畑および水田の硝化微生物相には基本的に差がなく、土壌の硝化反応にはアンモニア酸化細菌(AOB)がより大きな寄与をしていることを明らかにした。これらは、実験手法の改良を含めて、科学的な価値が高い。
今後、中間評価までに実用化した可搬形温暖化ガス測定装置による連続観察を活用し、野外でのN2O除去とN2O削減の実証研究が一層進展することが期待される。