生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

食の安全を目指した作物のカドミウム低減の分子機構解明

(東京大学大学院農学生命科学研究科 西澤直子)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、イネなどの食用作物におけるカドミウムの吸収・移行・蓄積の分子機構を明らかにすることを目的とする食料の安全にとって重要かつ緊急性の高い課題である。概ね計画通り順調に進捗している。評価できる具体的項目としては、ガンマー線照射や重イオンビームでの変異処理で得られているイネでのカドミウム低蓄積性あるいは高蓄積性変異系統やT-DNA挿入による低蓄積系統の同定、ナス、トルバムの網羅的遺伝子情報の構築、重金属の移行を視覚的に捉えるイメージング技術を積極的に取り込んでいる点、導管への排出段階がカドミウム蓄積の大きな関門であることを指摘した点などがあげられる。
ほぼ計画通りに進捗しているので、全体としては、このまま計画を進めてよい。
本研究課題は、研究期間が終了した段階で、低カドミウム作物が育成されることが期待されている。研究機関が得意とする役割分担、連携を明確にして、対象作物を絞り、効率的な連携研究を期待する。
得られた研究成果を特許もしくは原著論文の形で、公にすることにも一層心がけて欲しい。

(2)中課題別評価

中課題A「作物におけるカドミウムの吸収と蓄積の分子機構」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 西澤 直子)

CDRタンパク質がカドミウム耐性に寄与していることが証明されたが、その機能解析を期待する。また、マイクロアレイによるカドミウム応答の研究を一層推進して欲しい。カドミウム・トランスポーターの発見には大きな進展が見られるが、今後は、各トランスポーターのカドミウム吸収・移行・集積に対する寄与度の解析や、トルバムにおけるカドミウムの導管への排出抑制の機構の解明などトランスポーターでの解析を促進して欲しい。さらに、分子機構の解明と同時に組み換え体の作出という課題全体の成果につなげて欲しい。
また、研究成果の公表につき、さらなる努力が必要である。

中課題B「作物のカドミウム輸送機構の生理的解析」
((独)農業環境技術研究所 荒尾 知人)

3つの小項目のいずれにおいても、一定以上の成果をあげている。特に、世界のイネコアコレクションでの可食部のカドミウム濃度が、それぞれの導管内のカドミウム濃度に正の相関をもつことを見出した点は評価できる。これまでの成果をさらに発展させ、可食部への蓄積の分子機構の解明につながるリード役を期待する。
今後は、水稲については、WRCの選抜試験及び重イオンビーム照射イネからの選抜に期待する。その際、低吸収品種ばかりでなく高吸収性品種も同等の扱いで解析をして欲しい。カドミウムの吸収性を検知するには両者の比較解析が重要であり、高吸収性も新品種としての用途も十分考えられる。WRCイネ品種コレクションでの解析が、さらに補完的な結果を導き出してくれれば理想的である。
また、ササニシキとハバタキのカドミウム・ローディングの差異と既知トランスポーターの種類と分布密度の解析等も他の中課題との連携で加速して欲しい。
情報発信についても、従来以上に公表されることを期待する。

中課題C「ナス属のカドミウム吸収特性に関する遺伝子発現解析基盤の構築」
((独)農研機構 野菜茶業研究所 福岡 浩之)

ナス、トルバムの網羅的遺伝子情報を構築したことは評価できる。
今後の大量高速シークエンスによる配列情報の公開データベース化はそのまま進めてよい。
分子生物学的な手法と解析には、3研究機関で共通遺伝子の絞り込みを行い、効率的な解析を考えて欲しい。
なお、情報発信をもう少し加速して欲しい。