生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

食品の安全性評価用超高感度ナノセンサーの開発

(神戸大学遺伝子実験センター 今石 浩正)

評価結果概要

(1)全体評価

簡便に食品の安全性を検証する方法、すなわちヒトP450を網羅的にクローニングしそれらをナノチップに貼り付け、パターン認識技術も駆使して迅速に検定する方法であるから、時宜にあったもので期待も大きい。目標の達成に向けて、堅実に取り組まれており、全体的には計画通り進行している。できるだけ早く最終的なアウトカムを意識してナノチップの利用に進んでほしい。
ヒトP450による分解産物の有害性が既知の試料についてアレイ化した各サブタイプP450が作用するかどうかというパターン「以下、"シグネチュア"という。」により、その正体が同定できるということのみでは、ELISA等の競合技術が存在しており十分ではない。"シグネチュア"と有害性との相関があり、未知の試料についても"シグネチュア"を見ることにより有害性が予測できるということになれば,この技術の新規性・有用性がはるかに高まるであろう。
ヒトP450の品揃えと供給体制、そしてセンサーの作製の可否が本研究の最終目標達成の成否を決める。したがって、3機関の研究課題の分担・連携について修正を加え、これらの研究について、残り2年間集中して推進することを望む。

(2)中課題別評価

中課題A「食品中の安全評価用P450酵素の調製」
(神戸大学遺伝子実験センター 今石 浩正)

野生型ヒトP450遺伝子18種、遺伝子多型(SNPs)の変異型遺伝子9種のクローニングを終わり、特定のアミノ酸配列を利用したカセットプラスミドを構築して実験を効率化し、大腸菌内へ発現させている。さらに、P450発現大腸菌株を中課題C(メルシャン)に供給し、P450膜画分を中課題B(産業技術総合研究所)に供給している。また、いくつかの既知の物質に対し、細胞毒性の評価を実施し、モデル化合物の安全性評価をして基本的な技術を確立している。当初計画の目標は達成されている。残る研究期間内に対象となるヒトP450あるいは被検査物の数を増やすことは達成可能であり、今後は未知物質や食品そのものを対象として同様の実験を進めてほしい。

中課題B「食品の安全性評価用チップの作製とP450活性測定」
((独)産業総合技術研究所 セルエンジニアリング研究部門 達 吉郎)

ナノチップの作製に成功したのは成果である。蛍光基質法と酵素センサーの2種の検出方法の開発を同時に進めているが、蛍光基質法と酵素センサーのどちらを取るのかを科学的に説明し、"シグネチュア"を見て有害性が予測できるのかを、急ぎ確認すべきである。いずれにおいても検出方法を確立し、早急にアレイ化した時の検出能・検出精度・検出限界などの評価を行う必要がある。今後は、このプロジェクトの目的に特化し,それに沿った手法に絞って研究を進めることを望む。

中課題C「P450発現大腸菌を用いた食品安全評価用化合物の生物生産システム」
(メルシャン株式会社 一色 邦夫)

地味な仕事であるが多数の代謝物を生成して構造決定している点は評価できる。これまでは、既知の有害物質に関し代謝産物を同定し、また、代謝産物の安定供給のための培養系を確立し、当初の目標は達成されている。その結果が予想できる既知物質についての成果である。今後は、未知の物質に対する知見が蓄積されその検定にも使えるようなシステムの開発が期待されるが、ヒトP450の量産化に専念すべきである。