生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

植物ウイルスの媒介昆虫・植物間応答機構の解明と制御技術の開発

((独)農研機構中央農業総合研究センター 大村 敏博)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、東南アジアで被害を発生させる昆虫媒介性イネウイルスの主要な9種について、ウイルス感染、媒介昆虫内での複製・細胞内移行・排出、宿主植物(イネ)への感染・病徴発現に至る諸過程についての機能を探りつつ、その知見を踏まえて、ウイルス抵抗性付与をウイルス遺伝子の発現抑制組換えイネ作出によって達成しようとするものである。既に世界をリードするユニークかつ優れた成果を上げており、その成果を関連分野の一流国際誌に多数発表するなど、成果の公表にも積極的に取り組んできた点は極めて高く評価できる。また、イネ萎縮ウイルスとイネ縞葉枯ウイルスを中心に、多数のRNAiイネ系統を作出し、これまでとは全く異なる機構で強い抵抗性を付与されているものを明らかにするなど、生物系特定産業への成果還元が強く期待される成果を当初予想以上の早いペースで上げている。一方、マイクロアレイを用いた宿主植物(イネ)の応答機構については、膨大なデータが得られ、その解析ツールの開発も順調に進められているものの、ウイルスと宿主細胞因子の分子レベルでの攻防の体系的理解に対して、この膨大なアレイデータをどのように活用していくのか、これまでの研究ではやや不明確である。

(2)中課題別評価

中課題A「植物ウイルスの感染・複製機構の解明及び抵抗性組換え植物の開発」
((独)農研機構中央農業総合研究センター 大村 敏博)

アジアに発生する主要なイネウイルス9種類について、媒介昆虫での複製・排出機構を中心に、ウイルス感染・複製・細胞内移行・宿主における応答等の諸過程に関与する機構を広範に解析し、世界をリードする大変優れた研究成果を上げ、ウイルス分野では国際的に著名な学術誌に公表して高い評価を得ており、基礎研究としての成果は極めて高く評価できる。さらに、このような基礎的知見を踏まえつつ、ウイルス遺伝子のさまざまな断片を導入した遺伝子発現抑制形質転換イネ系統を多数育成し、これまでとは全く異なる機構によって強いウイルス抵抗性を付与できることを示しており、ウイルス耐性イネ作出に向けた新しい戦略の構築を掲げている本研究の最終目標達成に向けて着実かつ早いペースで成果を上げている点も極めて高く評価できる。

中課題B「マイクロアレイ法を用いたウイルス応答反応の解析と育種への応用」
((独)農業生物資源研究所 菊池 尚志)

本研究で対象としている9種類のウイルスのうち主要8種のウイルス感染に伴う宿主(イネ)の応答について、膨大なオリゴアレイデータを取得し、その解析ツールについても開発が順調に進んでおり、研究は当初想定通りに順調に進展しているものと判断される。また、イネわい化ウイルスの抵抗性遺伝子候補を特定できたことは大きな成果であり、Rice tungro bacilliform virusの抵抗性遺伝子について解析が進んでいることは計画以上の成果である。ただ、本プロジェクト全体の目標であるウイルスと宿主の攻防を分子レベルで体系的に解明・整理するとの観点で見れば、宿主の反応を単に遺伝子発現のプロファイルとして見るだけではなく、実際に病徴発現や抵抗性発現の中でどのような機能を担っているのかを明らかにすることが必要であり、現状ではその観点が明確ではない。