生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

植物病原細菌の病原性糖タンパク質糖鎖の構造解析と病害防除への利用

(岡山大学大学院自然科学研究科 一瀬 勇規)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究では、農作物に大きな被害をもたらす植物病原細菌について、新規防除剤や新規植物防御応答誘導剤の開発の基盤を得ることを目標に、Pseudomonas syringaeを材料として用い、鞭毛繊維タンパク質であるフラジェリンの糖鎖構造と運動能・病原性との関係、さらには、その糖鎖構造が宿主特異性や植物防御応答に与える影響を解析してきた。中間評価の時点までに、当初計画に沿って、中課題Aでは糖鎖構築に関する多くの細菌変異株を単離・解析し、また、中課題Bでは微量試料からの糖鎖構造決定手法を開発し、両中課題の連携により、糖鎖付加位置や糖鎖構造の決定に成功し、本分野では世界をリードする独創的な成果を上げており、順調に研究が進展しているものと判断される。また、多くの細菌変異株の培養や植物への接種により、糖鎖の存在が細菌の運動能や病原性に大きく影響することを明らかにし、糖鎖合成阻害剤を基盤とする新規防除剤開発の可能性を示した点で高く評価できる。しかし、もう1つの重要な課題である糖鎖構造と植物側の防御応答誘導との関係や糖鎖構造の違いと宿主特異性決定との関係については明確な結論は得られておらず、新規植物防御応答誘導剤の可能性は現時点では示されていない。

(2)中課題別評価

中課題A「植物病原細菌の糖鎖変異株の作出と機能の解明」
(岡山大学大学院自然科学研究科 一瀬 勇規)

本中課題では、代表的な植物病原細菌であるPseudomonas syringaeを材料に、鞭毛繊維タンパク質であるフラジェリンの糖鎖構造を解析するため、糖鎖構築に関わる多様な変異株を精力的に作成し、中課題Bとの連携のもと、その糖鎖付加位置を決定するとともに、各糖鎖の構造を世界に先駆けて決定しており、当初想定通りに研究が進捗し、基礎科学としての独創性が高い優れた成果を上げるとともに、その成果を植物病理学の国際誌に多数の学術論文として公表している点は高く評価できる。さらに、このような多数の糖鎖変異株を実際に培養し、植物に感染させることで、細菌の運動能や病原性への糖鎖の関与についても予定通りに研究を進め、糖鎖そのものの存在が重要であることを明らかにした点でも新規性の高い成果を上げている。一方、糖鎖構造の違いが植物側の防御応答の違いや宿主特異性を決定するのではないかとの可能性検証においては、当初想定したような成果は得られていない。

中課題B「植物病原細菌の病原性糖鎖構造の解析」
((独)農研機構食品総合研究所 吉田 充)

本中課題では、微量試料を用いた糖鎖の構造解析について、新規手法の開発を含め着実に研究が進展し、中課題Aで作成した各種糖鎖構造変異株の糖鎖を実際に解析することで、フラジェリンの糖鎖の結合位置や各糖鎖の構造を詳細に解明しており、当初予定の中間評価時点までの目標はほぼ達成されている。このような成果は病原細菌の糖鎖構造決定としては世界で初めてのものであり、基礎研究として高く評価できる。また、今回開発された解析手法は他の糖タンパク質の糖鎖構造解析にも活用できるものであり、波及効果を期待できる。しかし、当初想定していたフラジェリンの構成糖であるビオサミンのキラリティについては中間評価時点では明らかにされておらず、また、当初計画していた新しい蛍光標識法の開発も達成されていないなど、今後に残された課題もある。