生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

動物種を超えた繁殖制御を可能とするメタスチンの生理機能解析

(名古屋大学大学院生命農学研究科 前多 敬一郎)

評価結果概要

(1)全体評価

研究全体は、それぞれの中課題が実験対象動物を異にすることで、生物を超えたメタスチン機能が解明されるように組まれている。「視床下部—下垂体—性腺軸」で最上位に位置するGnRHの分泌調節機構へのメタスチンの関わりについて動物種を超えて多角的に解析し、メタスチンの応用による人為的な生殖制御法開発を目的としている本課題は、着実に成果を重ね中間時の到達目標は達成していると高く評価できる。さらに各中課題グループが、ブタにおけるメタスチン遺伝子の発現部位とその発現制御、ヤギにおけるGnRHパルス発生機構、タイにおけるKiss2遺伝子発現などそれぞれが当初想定していなかった成果を生み出しており、本研究チームの高い研究推進能力を示していると評価できる。それぞれが特色ある生物種を使い、将来に農林水産業・食品産業といった生物系特定産業に寄与する可能性を視野に入れた研究が展開されており、その中で基礎研究の重要さが十分に認識された研究展開が行われていると判断できる。その研究の中では、新規の発見となる複数の研究成果が出ており、それらの成果をさらに展開することで目的とするメタスチンの生理機能の解明が期待される。

(2)中課題別評価

中課題A「げっ歯類モデルを用いたメタスチンの作用解明とウシの繁殖機能制御法の開発」
(名古屋大学 前多 敬一郎)

比較的早期にマウスでのメタスチン機能の解析系を確立し、今後の実験が順調に進捗するものと期待できる。メタスチン構造の進化的安定性に着目して開発したKp-10については、今後における本課題の進展に注目したい。AVPVとARCのメタスチンニューロンが、LHのサージ状とパルス状分泌のそれぞれを制御するとの発見は重要であり、そこに、性腺からの因子や他の因子がどのように関わって生殖制御を行うかを明らかにする今後の研究を注目したい。 総合的には概ね当初の計画通りに進行し、中間時の到達目標はほぼ達成しており大きな問題はない。研究成果の発表の点について、論文や学術集会の開催など十分に行われている。

中課題B「ヤギを用いたメタスチンの作用メカニズムの解明」
(農業生物資源研 岡村 裕明)

視床下部弓状核(ARC)へ電極を挿入し、電気活動をモニターする独創的な手法でメタスチンニューロン集団の電気活動を測定してGnRHパルスジェネレーターがメタスチンニューロン集団である可能性を示した成果は、生殖生理学上極めて重要な発見でインパクトがある。また、ヤギにおけるメタスチンニューロンがネットワークを形成することなどの種特有な組織像を発見するとともに、性ステロイドホルモンの関与とともに新たにNKBとDynがメタスチンニューロンに存在するNKBとDynの受容体を介してメタスチンニューロン活動を拮抗的に制御することを発見しており、今後の展開が注目される。京都大学で開発された誘導体を用いることによってこれからの展開が期待できる。総合的に見て、本研究課題は推進上の大きな問題点はなく、研究計画達成の可能性は高いと判断できる。

中課題C「硬骨魚類脳内メタスチン神経系によるGnRHニューロン調節のメカニズム」
(東京大学 岡 良隆)

メダカを使った特色のある研究が展開されている。魚類のメタスチン遺伝子配列、遺伝子発現ニューロンの分布、さらにステロイドホルモンによる遺伝子発現調節機構の解明は世界初であり、科学的水準は極めて高く、また、kiss1遺伝子だけでなくkiss2遺伝子の発見ならびに2種類の遺伝子を同定したことは、生物における「kiss遺伝子の分子進化」についての極めて重要な知見であり高く評価でき、今後の成果が注目される。リアルタイムにメタスチンニューロン活動を観察できるメダカの系の確立は、本中課題にとって重要であり早期の確立が望まれる。また、養殖魚であるマダイを使った研究の展開にも期待したい。総合的に見て概ね当初の計画通りに進行し、中期時の到達目標はほぼ達成しており、研究成果と内外への情報発信も積極的に行われている。