生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 中間評価結果

有用物質・遺伝子・形質の探索と応用を目指した植物ケミカルバイオロジー研究

評価結果概要

(1)全体評価

農作物の生産制御に深く関わる植物ホルモンの内、ジベレリン、ブラシノステロイドおよびストリゴラクトンは、我が国が世界に先駆けて研究を行ってきた。本研究は、これまでの研究実績をベースに、これら植物ホルモンの遺伝的制御機構を解明し、それを農業生産に活用することを目的としている。このためのケミカルバイオロジー研究として、植物ホルモン機能制御剤の創製では、ブラシノステロイド生合成阻害活性、ストリゴラクトン生合成阻害活性そしてジベレリン受容体阻害活性の高い化合物を多く見出した。ブラシノステロイド生合成阻害剤を変異原として作出したシロイヌナズナ変異体において6種の変異原遺伝子の確定と機能解析を行い、イネでも6遺伝子の形質転換に成功した。今後、変異原遺伝子群と有用形質との関係解明からイネでの有用形質の発現が得られれば、新産業創出の可能性が期待できる。研究成果に関する論文は、植物分野の著名な学術誌に複数が掲載されている。このことから、本研究課題は、全体として計画通り順調に研究が進展し、当初計画にある目標を達成したと評価する。

(2)中課題別評価

中課題A「植物ホルモン機能制御剤の創製と遺伝学への応用」
(東京大学 浅見 忠男)

植物ホルモン機能制御剤の創製は直ちに農業生産に関わることから、世界的な関心が高い。そのような中で、研究素材としての利用価値が高いブラシノステロイド生合成阻害活性、ストリゴラクトン生合成阻害活性およびジベレリン受容体阻害活性の高い化合物を多く見出した。特に、ブラシノステロイド生合成阻害剤Brz220の異性体ごとの活性の解明、ストリゴラクトン生合成阻害剤の新しいリード化合物の発見とその構造展開によるより強い阻害剤ストリガゾールの開発、さらにはジベレリンとは一見構造上の類似性を持たない受容体阻害剤のリード化合物を見出したことは顕著な成果である。また、計画外の発見であるが、ジベレリン処理でストリゴラクトン生合成が抑制され、その結果、根寄生植物の発芽抑制に効果があることを見出したことも高く評価できる。このように、研究は計画通りあるいは一部はそれを上回って進捗し、また、学術上の研究成果も申し分ないものと評価する。

中課題B「ブラシノステロイド情報伝達機構のケミカルジェネティクス研究とイネへの応用」
((独)理化学研究所 中野 雄司)

ブラシノステロイド生合成阻害剤を変異原としたスクリーニングから暗所形態形成に関わるブラシノステロイド変異体を作出し、シロイヌナズナ変異体においては6種遺伝子の変異原遺伝子の確定と機能解析を実行した。一方、イネでは6種遺伝子を用いた形質転換に成功している。したがって、本中課題の成果は、研究手法としてケミカルジェネティクスが有効であることを実証したと言える。また、一部の遺伝子の形質転換体の表現型も調べられ、病害抵抗性や分けつ数、粒数、種子サイズの増加などが認められた。このように、シロイヌナズナにおけるブラシノステロイド情報伝達に関する遺伝子を、ケミカルジェネティクスを利用して複数見出すとともにその生理機能を解明し、また、イネにおいて形質転換体を作出するなど学術的に高く評価できる成果を得た。このことから、研究は順調に進展し当初の計画で設定された目標を達成していると評価する。

中課題C「植物ホルモン関連新規遺伝子のイネにおける機能解析と有用性の検討」
((独)農業生物資源研究所 森 昌樹)

本中課題は、中課題Aから提供された各種阻害剤の活性を調べるとともに、ストリゴラクトン情報伝達関連遺伝子のイネにおける表 現型を調べている。また、中課題Bによって見出されたブラシノステロイド情報伝達関連遺伝子に関しても表現型を調べている。さらに、これら共同研究機関で同定した遺伝子の形質転換に加え、独自に、イネにおいて16種類のブラシノステロイド関連遺伝子を検索し、それらの過剰発現体の作出から多くの興味深い表現型を見出している。なお、本中課題は、中課題A、Bの成果を使ってイネの変異体を作出するという役割から他の中課題の成果を待たざるを得ず、また、イネの生育に時間を要することから、研究の進捗は当初の計画と比較して若干遅れる傾向が見られた。しかしながら、研究の進め方自体に問題は認められず、全体として、研究はほぼ順調に進捗していると評価する。