生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

昆虫・微生物寄生共生系の分子機構の解明と利用

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 昆虫内共生微生物の遺伝子産物の機能とその改変に関する研究
    (◎石川統/東京大学大学院理学系研究科)
  • 昆虫共生系が生産する物質とその機能に関する研究
    (野田博明/農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所)
  • 昆虫寄生・共生菌が宿主体内で特異的に発現する遺伝子の探索、解明、利用
    (深津武馬/経済産業省産業技術総合研究所)

研究の目的

昆虫は多種多様な微生物と寄生ないし共生しつつ生活している。これらの微生物には宿主との相互作用の場でのみ特異的機能を発揮するものも多い。本研究の目的は、このような昆虫・微生物間の寄生および共生系に内在する生命原理を解明し、それらの有効利用への途を拓くことにある。

研究の内容

アブラムシの菌細胞内共生細菌Buchnera、ウンカの酵母様細胞内共生真菌、シロアリおよびその消化管内共生原虫、昆虫を中心とする無脊椎動物に広く分布する細胞内共生リケッチアWolbachia、社会性アブラムシにみられる酵母様細胞間共生真菌、および冬虫夏草をもたらす昆虫病原性真菌などをおもな材料として、遺伝子およびゲノムの構造解析、遺伝子発現の解析と遺伝子産物の同定、性状の検討、遺伝子解析による分子進化的研究を行う。

主要な成果

  • Buchneraのゲノム解析を行い、これがおよそ641kbの環状二本鎖DNAであり、583個のORFを含むことを明らかにした。また、その遺伝子レパートリーは細胞寄生細菌とは著しく異なる特徴をもつことを示した。これは絶対共生細菌についての初のゲノム解析である(Nature 407:81,2000)。
  • シロアリでは腸内に共生している原生生物やバクテリアがセルロースを分解していると考えられてきた。このシロアリのセルロース分解機構を解明するために、セルラーゼ遺伝子の単離・解析を行った結果、昆虫から初めてセルラーゼ遺伝子を見つけ、シロアリ白身が主要なセルラーゼを生産していることを明らかにした(Nature 394:330,1998)。
  • 昆虫類に内部寄生・共生する高度な能力を発達させた冬虫夏草類および酵母様共生真菌について、単離・培養・系統化、系統進化関係の解明、寄主特異性や内部共生の進化過程の解明、多数の新規group I intronsの発見、特異的発現遺伝子の解析等を推進し、多くの新知見を得た。

研究のイメージ

昆虫・微生物寄生共生系の分子機構の解明と利用