生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

昆虫の生体機能に基づくバイオマイクロマシンの研究

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • バイオマイクロマシンによる昆虫機能の再構成
    (◎下山勲/東京大学大学院工学系研究科)
  • 昆虫の神経・行動機能を規範としたバイオマイクロマシンの研究
    (神崎亮平/筑波大学生物科学系)

研究の目的

昆虫には小さな昆虫なりの数々のすばらしい生体機能があるが、従来これらの機能は生物学的な観察や解析の対象にとどまっていた。最近になって昆虫の生体機能の利用が提案されてきている。また、10数年前から、半導体加工に代表される微細加工技術によって機械と電子回路を合わせ持つ微小機械(MEMS、Micro Electro Mechanical Systems)の研究が盛んになってきている。本研究では、筑波大学の神崎グループが行った昆虫の神経行動学的な手法による生物学的解析結果を、東大の下山グループでMEMS技術を使って統合して微小電子機械システムを作り、生物学的解析結果の正当性を構成的手法により確かめ昆虫の生体機能を理解するとともに、微小システムを構築するための原理を追究し、昆虫の機能に基づく新しいデバイスを提案する。

研究の内容

昆虫の匂い源定位行動に着目し、微小な脳システムによる匂い識別機構、匂い源探索のアルゴリズムとその神経機構を解明し、類似の環境情報処理機能を持つ人工ニューラルネットを作成した。これを搭載した小型移動ロボットによって、構成的に発現メカニズムを研究した。昆虫の運動系の活動を計測するための超小型テレメトリシステムを開発し、その計測結果から微小システムの行動(はばたき飛行)のダイナミックスを分析した。また、昆虫の生体機能のうち、触角、複眼、歩行、飛行について、機構やセンサを研究・開発した。

主要な成果

  • 昆虫の脳神経機能のモデル化(匂い識別機構):昆虫の嗅覚系一次中枢である触角葉の匂い識別に関する電気生理・光学計測、免疫組織化学などの手法による分析から、匂い識別機構をニューロンネットワークとしてモデル化した(特許出願中(特願2000-128793、Neurosci Lett 258:135-138,1998)。
  • 昆虫の行動システムのモデル化(匂い源探索アルゴリズム):昆虫の匂い源探索の行動レベルでのアルゴリズムのほぼ全容を明らかにした。また、個々の脳ニューロンの構造と機能の分析から、匂い源探索行動を指令する神経回路網のモデル化を行い、小型移動ロボットにソフトウェアとして搭載して、雄カイコガの定位行動と同様の行動がロボットで発現した( I comp PhysiolA184:143-160,1999 Biosensors and Bioelecrtronics 14:195-202,1999)。
  • テレメトリによる生体情報計測:電子回路技術、半導体加工技術を用いて、微小テレメータ、微小電極、微小リモート電力供給回路などの生物学実験のためのツールを試作・研究した。特に、総重量0.32g(2ch)の世界最小レベルの超小型テレメトリの製作に成功した。昆虫に装着しても正常な飛行を示した。高速度撮影装置との併用により、昆虫のはばたき飛行に関するメカニズムの新しい知見を得た(特許出願中、J MEMS 9(1):24-31,2000)。
  • 複眼型マイクロ視覚センサ:直径1mmのレンズを組み込んだレンズアレイと、ポリイミドフィルム上に寸法0.75mmのフォトダイオードをアレイ状に配置したフォトセンサアレイをピエゾアクチュエータで振動させた受光部分から成るラージスケールモデルを試作し評価した。昆虫の視覚情報処理を手本にして人工複眼の情報処理系を試作し、ロボットに搭載して障害物回避をした。半導体技術を用いて微小化を試み、ラージモデル試作した複眼型センサと同様のマイクロ複眼型視覚センサを試作した(特許出願中(特願平11-355280、特願2000-373706)、J MEMS 9(1):32-37,2000)。

研究のイメージ

昆虫の生体機能に基づくバイオマイクロマシンの研究