生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

CO2固定細菌を利用した地球環境修復システムの構築

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • CO2固定細菌を利用した地球環境修復システム
    (◎森川正章/大阪大学大学院工学研究科)
  • 微生物の多彩なCO2代謝機構に関する基礎研究
    (跡見晴幸/京都大学大学院工学研究科)

研究の目的

単純な細胞構造をもつ微生物は一般に世代時間が短く、ヒトなどの多細胞高等生物群をはるかにしのぐ環境適応能力を発揮する。例えば、氷点下の南極海や1OO°Cを越える熱水鉱床からも微生物は見つかっている。そこで本研究では微生物の強靭な代謝能力に注目し、CO2や有害炭化水素類の固定分解など地球環境修復技術に利用可能な特殊環境微生物を広く探索し、その可能性について探ることを目的とした。

研究の内容

対象とする特殊環境として多くの環境汚染物質の生成と深い関係にある油田環境を選び、国内外の油田から100種類以上の微生物を分離した。その中で先ず炭化水素類の嫌気分解能力及び地球温暖化の原因物質であるCO2から石油成分(アルカン)を生産する能力を有する新属細菌HD-1を取得し、その代謝機構について検討した。また、C02固定に関するその他の微生物反応の特徴について解析した。一方、寒冷地帯の低温油田あるいは深部地下高温油田の微生物生態系について調査し、従来の常温微生物では不可能な環境下における石油分解など新しい地球環境修復技術開発に貢献する可能性について検討した。

主要な成果

  • HD-1のCO2固定経路について検討した結果、本微生物には分子量100kDaを越えるbiotin依存型carboxylaseが複数種類存在することが判明した。このような大きさの酵素は原核生物では初めてである。これらのうち120kDa酵素にはacetyl-CoA carboxylase活性が認められ、HD-1が3-hydroxypropionic acid経路によりCO2を固定している可能性が示唆された。
  • HD-1のアルカン合成反応において供給律速になるH2をポルフィリン抗体酵素/ヒドロゲナーゼシステムを使って生成できることを示した。
  • 地下2000mから分離した高度好熱油田細菌を使って常温菌では分解の難しい高分子量炭化水素を70°Cの高温で分解できることを示した。さらにその炭化水素代謝経路が細菌型ではなく真核生物型であったことから、本細菌が石油分解酵母の起源に関与する可能性が示唆された。
  • 超好熱始原菌内に新型のRibulose1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase(Rubisco)が存在することを発見した。本酵素は(L2)5というこれまでにはない五角形十量体構造であり、従来のRubiscoと比べてはるかに高いcarboxylase活性を有していることを見出した。

研究のイメージ

CO2固定細菌を利用した地球環境修復システムの構築