生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

宿主決定の分子機構:植物マイコプラズマの遺伝子発現・制御メカニズム

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 植物マイコプラズマの宿主決定の分子機構
    (◎難波成任/束京大学大学院新領域創成科学研究科)
  • 植物マイコプラズマの組織化学的解析による植物及ぴ昆虫宿主特異性決定の生物学的解明
    (土崎常男/(財)鯉淵学園)

研究の目的

植物マイコプラズマは1967年に世界で最初に我が国で発見された植物病原微生物で、内外を問わず農業生産上きわめて甚大な被害を生じている。しかし、培養に成功していないことから研究が遅れ、遺伝子レベルでの究明は全く行われておらず、本微生物の早急な特性解明と耐性組換え戦略の構築が切望されている。本研究では、植物マイコプラズマのDNAとその遺伝子の機能を解析し、宿主決定に関わる遺伝子の発現・制御機構を調べるとともに、その進化的起源に迫る。また耐性植物の構築戦略を模索する。

研究の内容

(1)植物マイコプラズマの分子系統分類により、モデル分離株を確立し、(2)植物・昆虫の宿主特異性や病原性に関わる種々の変異株を作出・分離し、その生物学的な解析を行った。(3)また、それらに特異的な遺伝子発現を解析した。(4)さらに、ゲノムや(5)染色体外DNAの構造解析を進め、(6)宿主決定に関わるメカニズムを分子レベルで解析した。以上の成果をもとに、耐性植物開発に向けた基盤的知見を得た。

主要な成果

植物マイコプラズマのモデル(野生)株( Phytoplasma asteri )の宿主特異性・病原性に関する各種変異株を用いて研究を行った。野性株・変異株よりウイルス型複製酵素を持った染色体外DNAと、キメラ型複製酵素を持ったプラスミド(viromid)を見出し、それらの構造を比較解析した結果、宿主特異性・病原性の変異に伴う欠失・組換え等を見出した。これらのDNAは、植物細胞内において高レベルで発現する。また、約1Mbaseのゲノム構造の解析を進めた。植物マイコプラズマは様々な基質を宿主細胞に依存しながら、最小の代謝系を維持しつつ進化を遂げ、ゲノムがコンパクト化する過程で、特徴的な遺伝子構成を築いてきたと思われる。これらの遺伝子データに基づき、植物マイコプラズマの各変異株において特異的に発現する遺伝子群の宿主細胞における発現解析を行った。また、宿主特異性の解析を進めた。昆虫宿主特異性は、植物マイコプラズマの昆虫細胞内における増殖能の可否によるのではなく、消化器官から昆虫細胞内への侵入の可否による。一方、植物宿主特異性は主に保毒昆虫の唾腺細胞から植物篩部細胞へ侵入した植物マイコプラズマの細胞内における増殖の可否による。また、全ての植物マイコプラズマに適用可能な検出診断系を確立した。以上の成果をもとに、耐性組換え戦略の基盤を構築した。

研究のイメージ

 

宿主決定の分子機構:植物マイコプラズマの遺伝子発現・制御メカニズム