研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- フィトクロム分子種特異的な光スイッチ機構の解明と応用
(◎古谷雅樹/14日立製作所基礎研究所) - イネフィトクロム機能の解明と応用
(高野誠/農林水産省農業生物資源研究所) - 光シグナルの長距離伝達系の研究
(長谷あきら/京都大学大学院理学研究科)
研究の目的
植物は幾つかの光リセプター群によって環境の光情報を捕獲しているが、そのなかでフィトクロムが最も主要な働きをしている。本研究は、「フィトクロム」がどのような仕組みによって光情報を捕獲し、遺伝子の発現を制御しているか、その分子機構を解明し、その成果を踏まえて植物の発育や生殖を「光シグナル」の利用によって制御することを目的としている。
研究の内容
本研究では、モデル植物としてアラビドプシスとイネを選び、複数の光リセプターが手分けをして環境情報を捕獲しシグナルを伝達する分子機構(図)をフィトクロム分子種欠損変異種を使って解析し、光リセプターから下流に発信されるシグナルによって制御される「遺伝子発現制御」の仕組みを分子生物学と細胞生物学の手法を使って明らかにした。
主要な成果
- 色素蛋白フィトクロムA、B、Cが全く異なる幾つかの仕組みで光を捕らえる機構を、それぞれの分子種欠損変異種を利用して、作用スペクトルを測ることにより発見した(PNAS 1996)。フィトクロムBは赤色光と近赤外光により可逆的にON/0FF反応のスイッチを切り替えるが、フィトクロムAは近紫外・可視・近赤外域の極微弱光による引き金反応と近赤外光と青色光による高エネルギー反応を制御している(図)。
- 暗所で育った植物の凍結切片を免疫組織化学的に調べると、フィトクロムAもBも特定のオルガネラには含まれず細胞質に溶けて存在している。しかし、細胞が光を受けると、フィトクロムAは数分のうちに、フィトクロムBは数時間をかけて、細胞質から核へ移行する(J Cell Biol1999, Pl Cell 2000)。
- 遺伝子組み替えの手法を用いて造ったフィトクロムのアポ蛋白に、有機化学的に合成した種々のテトラピロール誘導体を結合させて、人工フィトクロムをつくり、光可逆的吸収変化を調べた結果、各ピロール環がそれぞれ異なる働きをフィトクロム分子の光学活性に果たしていることを発見した(PNAS 2001)。
- 酵母two-hybrid法を使って、フィトクロムAとBの分子と直接に反応して下流へ信号を伝える蛋白PIM1とPIM2を単離・固定し、これらの蛋白を欠く変異種の解析を行って、シグナル伝達経路を調べた。
- 蛍光ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いて、ゲノム内の遺伝子の発現を大規模に検索する方法を開発して、フィトクロムAあるいはBに依存して発現する遺伝子の大規模検索を行って、初期応答遺伝子および遅延応答遺伝子を単離・同定した。その結果、フィトクロムAとBは光捕獲の機構や核移行の過程が全く異なるにも関わらず、それぞれが引き起こす遺伝子発現調節は分子種特異的な場合はごく少なく、相補的であった。