生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

植物病原菌類における多剤耐性の分子機情の解明

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 植物病原菌類における多剤耐性遺伝子の発現機構の解明
    (◎日比忠明/東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 植物病原菌類における薬剤耐性誘発因子の作用機構の解明
    (阿久津克己/茨城大学農学部)

研究の目的

現在、農業の現場では、選択性の高い殺菌剤の普及に伴ってこれら薬剤に対する耐性菌の出現が間題となっており、これに対処する新たな戦略の構築が求められている。そのためには、まず、薬剤耐性の分子機構の解明を急ぐ必要がある。ヒトのがん細胞や酵母では、ABCトランスポーターをコードする多剤耐性遺伝子が化学構造や作用機構の異なる各種薬剤に対する多剤耐性に関与していることが知られている。そこで、カンキツ緑かび病菌のDMI剤耐性など、植物病原菌類の薬剤耐性における多剤耐性遺伝子の関与について解析することにした。一方、灰色かび病菌のジカルボキシイミド系薬剤耐性が耐性菌由来の低分子物質によって誘発されることを見いだしたことから、この薬剤耐性誘発因子の構造とその誘発機構についても解析し、耐性菌出現のメカニズムを解明することにした。

研究の内容

各種植物病原菌類における多剤耐性遺伝子の存在を確認した後、本遺伝子を単離して構造を解析するとともに、遺伝子破壊実験と薬剤による発現誘導実験によって薬剤耐性への関与を明らかにする。さらに、カンキツ緑かび病菌のDMI剤耐性の分子機構を解明する。一方、灰色かび病菌の薬剤耐性誘発因子を単離・精製して、その構造と耐性誘発機構を解析する。また、植物体上における本菌とその同属異種菌との間での耐性誘発を検証する。

主要な成果

  • カンキツ緑かび病菌をはじめ、各種の植物病原菌にABCトランスポーター遺伝子群(多剤耐性遺伝子群)が存在することを明らかにした後、その遺伝子破壊実験の結果から、この遺伝子群が各種薬剤の菌体外への排出を分担しており、菌類の薬剤耐性に必須の基本的な遺伝子であることを証明した。植物病原菌類では最初の報告である。
  • カンキツ緑かび病菌のDMI剤耐性の主因は、この薬剤の標的酵素であるデメチラーゼ遺伝子が、その上流に存在している重複エンハンサー配列の転写促進作用によって過剰発現していることによることを証明した。植物病原菌類ではこれまでに報告例のない新たな耐性機構である。
  • 灰色かび病菌の薬剤耐性誘発因子を単離・精製してその構造を解析した結果、この本体がcAMPであることを証明するとともに、cAMPによって本菌のトランスポゾンBotyが活性化され転位することによって耐性が誘発されるという可能性を示唆するデータを得た。また、自然界においても実際に耐性菌が分泌するcAMPによって耐性誘発現象が起こっている可能性が示唆された。従来、報告例のない新たな耐性誘発機構であると考えられる。

研究のイメージ

植物病原菌類における多剤耐性の分子機情の解明