研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- 森林生態系における共生関係の解明
(宝月岱造/東京大学アジァ生物資源環境研究センター) - 共生機能と環境ストレス耐性機能の解明
(丹下健/東京大学大学院農学生命科学研究科) - 共生機能利用によるマツ林の活用技術の開発
(◎鈴木和夫/東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究の目的
森林生態系の維持機構には植物と微生物の生物間相互の共生関係が重要な役割を果たしていると考えられているが、その詳細は明らかでない。そこで、現在世界的に衰退現象が問題とされるマツ林について、樹木一外生菌根菌共生系の生理・生態的牲質を明らかにするとともに、共生関係を利用した樹木の環境ストレス耐性機能についての検討やマツタケなどの外生菌根菌栽培技術の開発に寄与することを目的とする。
研究の内容
樹木一外生菌根菌共生系がもつ機能について、人工的な菌根形成実験系・平箱実験系を用いて、オートラジオグラフィーなどの実験手法によって、外生菌根共生系の生理学的特徴を明らかにするとともに、DNA多型解析によって菌根菌の繁殖様式について解析する。外生菌根形成による環境耐性獲得機能について、大気二酸化炭素濃度の上昇と土壌の酸性化に焦点をあてて、不可給態リン酸の吸収能とアルミニウム過剰耐性の獲得との関係を明らかにし、共生機能が環境ストレス耐性に及ぼす影響を評価する。マツタケなど外生菌根菌による共生現象の構造と機能について微細構造から、遺伝的性質をDNA多型解析から明らかにし、また、マツタケなど外生菌根菌の人工菌根合成法、マツタケ人工シロ誘導法、マツタケの定着技術の開発などを行う。
主要な成果
- 定量的経時オートラジオグラフィーの適用により、宿主から菌根菌への14C一光合成産物の移動を解析した。14C一光合成産物の移動については、菌糸を通した樹木間の移動の有無が近年問題になっているが、本研究からそれがないことを明確に示した。
- 菌根菌の繁殖特性を明らかにするために、マイクロサテライトDNA多型解析法及びITS多型解析法にいくつか改良を加え、菌根菌個体群のジーンフロー、地下部菌根菌集団の存在状態を遺伝的に明らかにした。
- 樹木の根のアルミニウム害を緩和する有機酸の分泌は、アカマツの外生菌根で誘導されるという菌根形成によるアカマツの耐性獲得機構を明らかにした。
- いままでアカマツとの共生機能が不明とされたマツタケの菌根内における微細構造と生理的機能の詳細を明らかにし、マツタケは典型的な菌根菌であることを明らかにした。
- マツタケ菌根の迅速人工合成法(特願平11-357439号)及びマツタケの人工シロ誘導法(特許出願中)を確立した。今後、半自然及び野外アカマツ林でのマツタケの人工栽培への応用が期待される。