研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- 生理機能調節性タンパク質の分子設計と利用に関する基盤的研究
(◎内海成/京都大学食糧科学研究所) - 生理機能調節性タンパク質集積作物の分子育種
(高岩文雄/農林水産省農業生物資源研究所) - 食品アレルゲンの活性発現機構と遺伝子転換作物のアレルゲン性評価に関する基盤的研究
(松田幹/名古屋大学大学院生命農学研究科)
研究の目的
21世紀は、食糧間題が人類にとっての最も主要な課題である。心疾患、高血圧、アレルギーなどの食源性疾患の増大、高齢社会の到来、および人工の増大と環境悪化による食糧不足がその原因である。食糧不足が最も深刻になるのはタンパク質であり、質の高い、機能的に優れたタンパク質の供給体制の確立が急務である。本研究は、生理機能性を持つ、あるいは強化したタンパク質を高度に蓄積した作物を開発することによってこれらの課題の解決を図ることを目的とする。
研究の内容
食品タンパク質に由来するペプチドに健康の維持・増進に役立つ機能を持つものがあることを見い出している。そこで、そのような生理機能性を持つペプチドをさらに探索するとともに高活性化設計を行う(京都大学)。一方、血清コレステロール値低下機能を持つダイズタンパク質の遺伝子発現機構を解明する(農林水産省)。これらに基づいて、生理機能性を格段に強化し、優れた生活習慣病予防効果を持つ新型ダイズタンパク質を分子設計するとともに、それらを高度かつ安全に集積したコメを開発する(京都大学、農林水産省、名古屋大学)。
主要な成果
- 食品タンパク質に由来する血圧降下ペプチド、免疫促進ペプチド、脱毛防止ペプチドなどの探索と高活性化設計に成功した。また、ダイズタンパク質の主要成分であるグリシニンとコングリシニンの立体構造を解明した。これらに基づいて、生理機能を強化・付与したダイズタンパク質を設計し、さらに検証した(京都大学)。
- コメの可食部である胚乳に特異的な遺伝子のプロモーターを単離し、胚乳特異的発現にかわるシス制御配列およびこれらのシス配列に結合する転写因子を単離・同定した。開発した胚乳特異的プロモーターや種子タンパク質の突然変異体を利用して、グリシニンを種子タンパク質あたり約10%程度集積させたコメの開発に成功した(農林水産省)。
- 有用タンパク質を集積する作物を開発する際に、組換え体における内因性アレルゲンの変動は重要な安全性評価項目の一つである。ダイズグリシニンを高度に集積させたイネを含む数種の形質転換イネの種子アレルゲンを特異杭体を用いて詳細に解析し、遺伝子の導入・発現により主要アレルゲンが増加したものはないこと、逆に低下したものがあることを見い出した(名古屋大学)。
- ダイズグリシニン遺伝子転換コメの安全性を、代謝変動、消化実験、急性・亜急性、および慢性毒性試験により確認した。また、遺伝子転換作物(食糧)の安全性評価基盤を確立した(京都大学)。