生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

臓器移植医療に応用するためのブタの品種改良・増産に開する研究

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 異種移植の臨床応用に関する基礎的研究
    (◎白倉良太/大阪大学大学院医学系研究科)
  • ブタの遺伝子工学・発生工学に関する基礎的研究
    (重久 保/日本ハム中央研究所)
  • 人畜共通感染症とその伝達感染に関する基礎的研究
    (瀬谷司/大阪府成人病センター研究所)
  • ブタにおける発生工学に関する研究
    (長嶋比呂志/明治大学農学部)

研究の目的

当プロジェクトは"移植医療に応用するためのブタを生産するために必要な基礎的研究"を完成させることを目的としている。最近の研究状況によると、ヒトの補体制御蛋白を高発現したブタは超急性拒絶反応は回避できるが数日後から起こる急性血管性拒絶反応は回避できないとされ、平均3週間の生着しか望めない。われわれは補体制御蛋白を高発現させると同時に異種抗原(糖鎖抗原)をできるだけ少なくしたブタが必要であると考え、このプロジェクトを開始した。

研究の内容

"移植医療に応用するためのブタを生産するために必要な基礎的研究"を目的としていることから、次の4つの柱を立てた。
(1)超急性拒絶反応と急性血管性拒絶反応を回避するための基礎的研究:ブタの抗原を減らす方法(抗原を作り出す酵素遺伝子のノックアウトと膜構造の改変の2面からアプローチ)とブタ細胞表面でのヒト補体の制御法について、遺伝子工学的、発生工学的手法を用いて、何の遺伝子をどのように改変する必要があるのかを検討した。
(2)遺伝子改変ブタの新規作出と繁殖:独自に開発したヒトの糖転移酵素遺伝子、補体制御遺伝子を実際にブタに導入した。ブタに高発現させる方法と作出効率を高める技術を検討し、またその形質が子孫に継代できるかを検討した。
(3)安全性の確保:ヒト補体制御蛋白の多くがウイルスの感染受容体でもあることから、ブタに導入する遺伝子(cDNA)の構造を検討した。
以上4つの研究は、移植用ブタの品質に集約されなければならないため、各研究は同時進行とし、情報交換を密にし、相互協力・共同研究の形で行ってきた。

主要な成果

  • 移植用ブタに有効な遺伝子に関する基礎的研究から、我々独自の導入候補遺伝子を12種類確立した。
  • 当プロジェクト独自に開発したものを含めて、3種類の遺伝子を導入したトランスジェニック=ブタを9系統作り出し、3世代まで継代できた。サルに移植する実験は進行中(サルの入手が困難なこと、サルの組換えDNA実験は規制が厳しいことにより実験数が増えないため)だが、良好な成績が出つつある。また、系統間の交配実験により有効ヒト蛋白を超高発現するブタ(ホモ接合体)や、2種類のヒト遺伝子を持つブタが生れる予定(妊娠中)。
  • 以上のトランスジェニック=ブタは、作出技術の開発・改良によって、極めて効率よく作出された。作出効率として、従来の15-20倍に(系統により異なるが、pMCP-DAF系の場合、遺伝子導入胚あたりTg産子数がO.1%から1.7%に)高めることができた。
  • ブタの標的遺伝子をノックアウトするための核移植技術を開発中で、効率的なクローンブタ作出(ブタ卵子、受精卵の凍結保存法の確.立とそれを用いた核移植)体系の基盤が確立した。
  • 安定供給のためのブタ精子および卵子の凍結保存法をほぼ確立した。

研究のイメージ

臓器移植医療に応用するためのブタの品種改良・増産に開する研究