生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

ドメインシャッフリングによる高機能キメラ酵素の創出と植物における発現

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • ドメインシャッフリングによる高機能キメラ酵素の創出
    (◎林清/農林水産省品総合研究所)
  • 高機能キメラ酵素の植物における発現
    (大宮邦雄/三重大学生物資源学部)

研究の目的

生物は、数十億年の間に進化してきた。この生物の進化は、とりもなおさず蛋白質(酵素)の進化であり、その進化の手法は、大きく2つに大別することができる。第1の手法は、蛋白質をコードする遺伝子上の1つの塩基の変化に起因するものであり、蛋白質を構成する多くのアミノ酸のうちの1残基が変化する。第2の手法は、エキソンシャッフリング等の遺伝子の相同組換えに起因するものであり、蛋白質を構成するアミノ酸配列が大幅に変化し、蛋白質の特性に極めて大きな変化をもたらす。環境に適応した生体を維持・調節するために、この両者の手法が複合的に繰り返され、蛋白質は進化してきた。ただし、相同組換えといったアミノ酸配列の大きな変化は、生物にとって致死的である場合が多く、さほど高頻繁に生じなかったものと推察される。
そこで、ダイナミックでありながら技術的には未開発の後者の手法に着目し、本研究を進めた。すなわち、(1)遺伝子シャッフリングにより新たな酵素(キメラ酵素)を創出し、既存酵素の特性を改良する技術の確立と、(2)本技術の適用により得られたキメラ酵素を植物に発現させることによるバイオマス資源の有効利用化の2つの目標に向けて、取り組んだ。

研究の内容

本研究では、低アレルゲン化食品素材の苦味低減に効果のあるアミノペプチダーゼ、ならびに植物細胞壁に作用し飼料効率向上に有用なセルラーゼ、キシラナーゼを対象とした。酵素遺伝子の任意の領域を他の酵素遺伝子の領域とシャッフリングする手法を確立するとともに、キメラ酵素を活性型酵素としてフォールディングする(折れたたみ)技術を開発することにより、熱安定性や基質特異性が向上した、高機能キメラ酵素を創出した。さらに、イネに改良キシラナーゼ、セルラーゼ等の酵素を発現させ、その飼料効率向上特性を解明した。

主要な成果

  • 遺伝子のキメラ化による酵素の特性改良
    複数の酵素遺伝子を対象に、遺伝子の任意の位置で組み換える手法を開発した。本手法を、β一グルコシダーゼ、キシラナーゼ、アミノペプチダーゼ等の酵素に適用し、分子活性を低下させることなく基質親和性を改変したり、加熱に対する安定性を向上させることに成功し、本手法が分子交配的に利用できることを明らかにした( Prtein Engin.,13,in pres(2000))。
  • 細胞壁関連酵素のイネにおける発現と飼料効率向上
    キシラナーゼやセルラーゼを導入した組換えイネを構築し、以下の成果を得た。1飼料イネの保水性、膨潤性は組換えイネでやや高く、細胞壁構造のゆるみが観察された。2ナイロンバック法を用いた消化率は、組換えイネでやや高い傾向が認められた。3競合PCR、FISH法により、組換えイネには繊維分解性ルーメン細菌の付着量が増加していることが判明した。
  • 酵素のリフォールディングキットの開発
    人為的に遺伝子を改変すると、対象酵素が活性型として得られず、封入体として得られる場合が少なくない。そこで、界面活性剤と界面活性剤を包摂する多糖類を組合わせて使用する迅速リフォールディングシステムを開発した。本システムは、大腸菌で発現させた際、活性型として得られない他の組換え酵素にも有効であることから、現在、キット試薬として上市する作業を進めている( FEBS Let. in press (2000))。

研究のイメージ

ドメインシャッフリングによる高機能キメラ酵素の創出と植物における発現