生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

ペプチド性植物増殖因子に関する基礎的研究

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • ペプチド性植物増殖因子に関する生物有機化学的研究
    (◎坂神洋次/名古屋大学大学院生命農学研究科)
  • ペプチド性植物増殖因子に関する生理学的研究
    (鎌田博/筑波大学生物科学系)

研究の目的

ペプチド性の因子は生物界において主要な信号物質であるが、高等植物ではペプチド性の信号物質は1990年代まで知られていなかった。研究代表者らは世界に先駆けて、ペプチド性植物増殖因子ファイトスルフォカイン(PSK)を発見し、その化学構造を明らかにするとともに化学合成にも成功した、本研究はPSKの生合成、受容体、生理作用などを解明することを目的としている。

研究の内容

PSKは、硫酸化されたチロシン2残基を含むアミノ酸5残基からなるペプチドで、植物培養細胞の増殖を低濃度で促進する。PSKをコードする遺伝子をクローニングし、さらに植物としては初めてのチロシン硫酸化の機構の解明を目指す。PSKは哺乳動物の増殖因子と同様に細胞膜上に特異的な受容体が存在し、受容体を介しての信号伝達が想定されるので、まずPSKに特異的な結合部位を検証し、結合タンパク質を精製し、その構造と機能の解明を目指す。PSKの植物界における分布を調査し、その生理作用を検討して生物生産への応用の基礎を築く。

主要な成果

  • イネ、トウモロコシなどの単子葉植物とニンジン、シロイヌナズナなどの双子葉植物の細胞培養液上清を調査した結果、ほぼ全ての植物がPSKを生産していることが判明した。培養細胞系におけるPSKの生理作用として、アスパラガス、イネ、ヒャクニチソウの細胞分裂促進、ヒャクニチソウ細胞の仮導管分化促進、ニンジン細胞の不定胚形成促進、植物個体を用いた系では、キュウリの芽生えにおけるクロロフィル合成促進と不定根形成促進、シロイヌナズナにおける夜間高温耐性の促進など多彩な生理作用が明らかになった。
  • PSKを多量に生産しているイネOc細胞のcDNAライブラリーよりPSK前駆体遺伝子0sPSKをクローニングすることに成功した。0sPSKは89アミノ酸をコードしており、N末端の22アミノ酸はシグナルペプチドと考えられ、PSKはC末端付近に1個がコードされていて、その前後はチロシンの硫酸化に重要と考えられる酸性アミノ酸に富んでいる。0sPSKをセンス方向に組み込んだ0c細胞は増殖が盛んになり、アンチ方向のものはほとんど増殖しなくなった。また0sPSKのゲノム解析から、1個のイントロンが存在することを明らかにし、プロモータ領域の解析も行なった。さらにチロシン硫酸化酵素について、部分精製を行ないその性質について明らかにした。
  • PSKは動物の増殖因子のように受容体を介してその生理作用を発現すると考え、PSKに放射性同位体を導入して、細胞及び細胞膜成分に特異的結合部位が存在することを明らかにした。イネ0c細胞の場合は高低二種の親和性結合部位が検出され、光アフィニティーラベルにより高親和性タンパクは2種あることが判明した。ニンジン細胞では120、150kDの2種の高親和性結合部位が検出され、これらのタンパクを精製し、部分アミノ酸配列を明らかにしている。

研究のイメージ

ペプチド性植物増殖因子に関する基礎的研究