生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 研究成果

無脊椎動物を利用したヒト病態の解析と病態モデル動物開発の基礎研究

研究項目及び実施体制

無脊椎動物を利用したヒト病態の解析と病態モデル動物開発の基礎研究
(鈴木利治/東京大学大学院薬学系研究科)

研究の目的

長寿社会の到来とともに社会的な問題となりつつある老人性痴呆症等の神経疾患の原因を究明したり、記憶の形成・維持の機構を解析して神経機能を明らかにする上で、研究の障害となっている問題点を無脊椎動物の生体システムを用いてブレークスルーし、神経変性疾患の解析や基本的な神経機能の解析に貢献する事を目的とする。無脊椎動物を用いて得られた成果を哺乳類動物にフィードバック・フィードフォワードする事で、病態モデル動物の開発に貢献する。

研究の内容

本研究では、主にショウジョウバエの遺伝子ネットワークシステムとナメクジの神経ネットワークシステムを利用する。1世代時間の短いショウジョウバエは逆遺伝学を駆使して、遺伝子機能を検定するのに適した系であり、ナメクジは比較的単純な神経系を持つが高度な神経機能を発現することから、記憶・学習の機構の解明に適した系である。これら無脊椎動物の実験系と並行して、得られた成果を利用しつつ哺乳類動物(主にマウス)を用いた病態モデル動物開発の基礎研究を行う。ヒトの病態解明を効率的に進める上で、昆虫等無脊椎動物の有効性を証明し、実験動物産業の多様化に寄与すると共に、新規病態モデルの開発を目指す。

主要な成果

  • 代表的な老人性痴呆症であるアルツハイマー病の原因因子の1つである、アミロイド前駆体タンパク質の代謝を制御する新規ヒト遺伝子X11Lの単離に成功し、その作用機構を明らかにした。ショウジョウバエからこのホモログ遺伝子を単離する事に成功し、ヒト及びハエの遺伝子をハエの視神経で発現させることで、この遺伝子が神経変性に関与する事を示した。この成果を受けて、マウスX11L遺伝子をノックアウトした変異マウスの作製に成功した。ノックアウトマウスの作成方法は、世界に先駆けてC57BL/6系統由来のゲノム・ES細胞を用いて成功した。この方法の実用化は、問題が指摘されていた従来法の欠点を解消し、神経機能の検定に有用なモデル動物作製に道を拓くものである。
  • ナメクジ単離脳において、忌避性行動の指標となる運動出力神経を発見・同定し、これを用いて、哺乳類では不可能であったin vitro嗅覚学習系を世界に先駆けて開発した。この成果を利用して、学習依存的な嗅覚中枢神経活動変化を明らかにし、中枢神経の同期活動が持つ新たな意義を示した。また、ナメクジの条件付けを利用して、長期記憶形成に関与すると期待される新規遺伝子LAPS18の単離に成功した。さらに、哺乳類動物の学習系としてマウスを用いた瞬目反射条件付けの実験系を確立した。この成果は、各種変異マウスを用いた病態モデル動物の基礎研究に有力な手段となるものである。

研究のイメージ

無脊椎動物を利用したヒト病態の解析と病態モデル動物開発の基礎研究