研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)
- エリシターの構造・機能解析
(◎渋谷直人/独立行政法人農業生物資源研究所) - エリシターシグナルの受容・伝達過程の生化学的解析
(賀来華江/独立行政法人農業生物資源研究所) - エリシター応答性遺伝子の機能と発現調節機構の解析
(南 栄一/独立行政法人農業生物資源研究所)
研究の目的
植物が病原菌由来のシグナル分子(エリシター)を認識し、細胞内・細胞間シグナル伝達経路を経て生体防御関連遺伝子の発現を誘導するメカニズムを明らかにすることにより、植物の外界に対する応答や適応能力をシグナルの検出と伝達というレベルで制御する技術の開発基盤を確立することを目的とする。
研究の内容
イネ培養細胞に防御応答を誘導する新規なエリシターの単離・構造解析を行う。培養細胞を用いたモデル系を利用して、エリシターの受容に関わる分子とその下流のシグナル伝達系の解析を行う。エリシターによって誘導される遺伝子群の発現制御機構ならびに防御応答における役割を解析する。培養細胞で得られた結果と植物体レベルでの防御応答との関連を調べる。
主要な成果
- イモチ病菌細胞壁βグルカンから強いエリシター活性を示す新規5糖を単離し、構造を解明した。イネとダイズでは全く異なるグルカン断片をエリシターとして認識することを示した。
- イネ培養細胞原形質膜からキチンオリゴ糖エリシター受容体と想定される膜糖タンパク質を単離精製した。この分子はエリシター刺激により膜上で2量体を形成しシグナル伝達を行うことが示唆された。類似した分子が様々な植物細胞原形質膜に存在し、エリシター応答性とも対応することから、これらが進化的に保存された防御応答関連受容体分子であることが示唆された。本受容体を介したシグナル伝達は3量体Gタンパク質を必要としないことを変異体を用いて明らかにした。
- エリシターにより誘導される活性酸素生成や一部遺伝子の発現は、PLC/PLDの活性化とホスファチジン酸の生成により制御されていることを示した。エリシター応答性遺伝子の発現に至るシグナル伝達経路は、細胞質酸性化、ジャスモン酸、タンパクキナーゼ・ホスファターゼ阻害剤に対する感受性、タンパク合成の要求性などで区別される複雑な分岐構造をもち、その上流にCa2+による制御が存在することが示唆された。
- エリシター初期応答遺伝子として単離したRing-H2 finger型遺伝子(EL5)がユビキチンリガーゼであること、ユビキチン結合酵素も同時に発現誘導されることを明らかにし、エリシター応答の際にユビキチン・プロテアソーム系を介したタンパク分解系が活性化されていることを示唆した。
- 切除葉にキチンオリゴ糖を処理すると葉肉細胞にEL2,EL3の2種のエリシター応答性遺伝子の発現誘導が見られた。また、キチンオリゴ糖を根に処理した芽生えの葉身で、いもち病菌に対する誘導抵抗性が観察された。
主な論文発表
- Ito Y., et al. : Identification of a high-affinity binding protein for N-acetylchitooligosaccharide elicitor in the plasma membrane of suspension-cultured rice cells by affinity labeling : Plant J., 12: 347-356 (1997)
- He D-Y., et al. : Gene activation by cytoplasmic acidification in suspension-cultured rice cells in response to the potent elicitor, Nacetylchitoheptaose : Mol. Plant Microbe Int., 11: 1167-1174 (1998)
- Yamaguchi T., et al. : Differences in the recognition of glucan elicitor signals between rice and soybean: β-glucan fragments from the rice blast disease fungus Pyricularia oryzae that elicit phytoalexin biosynthesis in suspension-cultured rice cells : Plant Cell, 12: 817-826 (2000)
- Takai R., et al. : Isolation and analysis of expression mechanisms of a rice gene, EL5, which shows structural similarity to ATL family from Arabidopsis, in response to N-acetylchitooligosaccharide elicitor : Plant Sci., 160: 577-583 (2001)
- N. Shibuya & E. Minami : Oligosaccharide Signaling for Defense Responses in Plant : Physiol. Mol. Plant Pathol., in press.
研究のイメージ
