生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 研究成果

絹タンパク質の構造一物性相関の徹底解明とバイオセンシングシステム等への応用

研究項目及び実施体制

絹タンパク質の原子レベルでの構造一物性相関の解明と新しい絹繊維等の開発
(朝倉哲郎/東京農工大学工学部)

研究の目的

絹は、化学合成繊維などに比べて環境や人にやさしく、しかもその構造を変えることによって、特性のより優れたものに改変、あるいは各種の機能性をもつ絹を創成できる。このような特性をもつ絹の構造と物性について、新たに開発する解析能力の高い固体核磁気共鳴(固体NMR)構造解析手法を用いて詳細に解明し、その知見を生かして、優れた特性をもった新しい絹繊維等を開発することを目的とする。

研究の内容

  • 絹の原子レベルでの詳細な構造決定のための固体NMR構造解析手法の開発
  • 蚕における絹の繊維化前・繊維化後の構造と繊維化機構の解明
  • 絹タンパク質の構造一物性相関に関する新しい知見を生かして、優れた特性を持つ新しい絹の分子設計とそれに基づく新規絹様物質の作成
  • 再生絹繊維の製造プロセスの開発(新しい溶媒、製造手法等の開発)と優れた新らたな特性を持つ絹繊維等の開発

主な成果

  • 固体NMR法を用いて、これまで構造の解析が困難であった、非晶構造についても解析が可能な優れた高分子・繊維構造の解析手法を確立した。
  • 1で開発した解析手法を用いて、世界で初めて、家蚕絹の繊維化前・繊維化後の構造を決定するとともに、蚕の巧みな繊維化機構の解明に成功した。これによると、絹の繊維化前の構造は、分子内水素結合と分子間水素結合が交互に形成された繰り返しβターン構造を示しており、これが蚕の吐糸の際のわずかな延伸力等により、瞬時にすべての分子間水素結合が形成されて繊維化後の構造に変化する。その構造は、73%が分子間構造の異なる2種類のβシート構造で、残りの27%がゆがんだβターン構造という著しく不均一な構造であることが明らかになった。
  • 再生絹繊維の製造に適した新しい溶媒の開発等により、従来技術では製造が困難であった高強度な再生絹繊維の製造プロセッシング技術を確立した。
  • 開発した新しい絹の分子設計や再生絹繊維製造技術などを駆使して、高強度・高弾性の特性を有した家蚕と野蚕のハイブリッド絹様材料や研究資材として新たな利用が期待できる細胞接着性を有する絹様物質などの作成手法を開発した。

主な発表論文

  • Asakura T., et al. A Repeated b-Turn Structure in Poly (Ala-Gly) as a Model for Silk I of Bombyx mori Silk Fibroin studied with Two-dimensional Spin-diffusion NMR under Off Magic Angle Spinning and Rotational Echo Double Resonance: J. Mol. Biol., 306: 291-305 (2001)
  • Zhao C. & Asakura T., : Structure of Silk studied with NMR: Prog. NMR Spec., 39:301-352(2001)Asakura T., : Structure of Bombyx mori Silk Fibroin Before Spinning in Solid State studied with Wide Angle X-Ray Scattering and 13C CP/MAS NMR: Biopolymers, 58: 521-525(2001)
  • Yao J., et al. : Artificial Spinning and Characterization of Silk Fiber from Bombyx mori Silk Fibroin in Hexafluoroacetone Hydrate:Macromolecules, in press (2001)
  • J. D. van Beek et al : Solid-state NMR determination of the secondary structure of Samia cynthia ricini silk:Nature, 405:1077-1079(2000)

研究のイメージ

絹タンパク質の構造一物性相関の徹底解明とバイオセンシングシステム等への応用