研究項目及び実施体制
超単分散性マイクロスフィアを用いた新規な分離場および反応場の構築に関する基礎的研究
(中嶋光敏/独立行政法人食品総合研究所)
研究の目的
マイクロスフィア(MS;エマルション、微粒子)は、食品や医薬品等に使用されているが、サイズの不均一さや安定性の面から利用が限定されている。そこでMSのサイズと均一性の制御を目的として、μmオーダーの微細流路を持つシリコンマイクロチャネル(MC)を作製し、これを利用した単分散MS作成技術を確立する。MSとしては水中油滴(O/W)、W/O、複合型エマルション、脂質や高分子微粒子を作成し、その特性を解明する。また油脂とエタノールを利用した低粘性マイクロエマルション系、様々な機能性成分を高濃度で含有するエタノールエマルション系の作出とその特性解明を行い、MSの新たな用途を開発する。
研究の内容
作製したMCをモジュールにセットして、分散相となる液体をMCを介して連続相に吐出し、液滴を形成させた。形状やサイズの異なるMCの作製、各種モジュールの製作、可視化システムの改良を行い液滴形成とその特性を調べた。乳化機構の解析、液滴形成と界面活性剤の関係、MCの疎水化と油中水滴(W/O)エマルションの作成、複合エマルションの作成、作成したエマルションの微粒子化について検討した。またエタノールと油脂を利用したマイクロエマルションおよびエマルション系を作出し、その特性を明らかにした。
主要な成果
- スピードカメラ観察により、新規に開発したMC乳化法は、従来の機械的攪拌による剪断と異なり、複雑なMC構造に基づく界面張力により分散相が自発的に剪断される乳化法であることを示した。
- テラスや仕切壁、チャネルサイズ・長さの異なる平板型MCを作製し、MCの構造が単分散エマルションの作成に与える影響を検討した。また、回収が容易なクロスフロー型MCモジュールを開発した。
- 微細加工技術により作製したシリコンMCを用いて、3～100μmのサイズの単分散エマルションを作成することができた。
- 高融点天然油脂を用いて、高温液体状態でMC乳化を行い、単分散エマルションを作成し常温にすることで、均一サイズの固体脂質微粒子の作出に成功した。
- シリコンMCのほかに、洗浄・再生が容易なステンレスMCを作製し、20～210μmのO/Wエマルションを作成することができた。
- 新たに膜乳化可視化装置の製作を行った。膜面での微視的挙動の顕微鏡による直接観察が可能となり、ガラス膜や高分子膜を用いた膜乳化の特性を明らかにした。
- 平板型MCは生産性に難点があったが、新たに貫通型MCとして円状と長方形状の断面を有する貫通型MCの作製に成功した。円状MCでは出口で大きく膨張し液滴作成はできなかったが、長方形状の貫通型MCを用いることにより、自発的な液滴形成が起こり、単分散エマルションの効率的作成(最大10mL/h)が可能であることが明らかとなった。
- モノグリセリドを界面活性剤として用いたトリオレイン/エタノール系、あるいはトリオレインを牛脂に変えた系を作成し、低粘性バイオ燃料としての適合性を有することを明らかにした。
- エタノールを分散相、植物油脂を連続相、界面活性剤をデカグリセリンオレイン酸エステルとした長期間安定な分散系を見いだし、その安定化機構を提案した。
主な発表論文
- Tong J., et al. : Surfactant Effect on Production of Monodispersed Microspheres by Microchannel Emulsification Method : J Surfactants Detergents, 3: 285-293 (2000)
- Sugiura S., et al. : Interfacial Tension Driven Monodispersed Droplet Formation from Microfabricated Channel Array: Langmuir, 17: 5562-5566 (2001)
- Liu X.Q., et al. : Stability Characteristics of Dispersed Oil Droplets Prepared by the Microchannel Emulsification Method: J Coffoid Interface Sci, 233: 23-30 (2001)
- Kobayashi I., et al. : Preparation of Micron-Scale Monodisperse Oil-in-Water Microspheres by Microchannel Emulsification: J Ame Oil Chem Soc, 78: 797-802 (2001)
- Xu Q., et al. : Effect of the Dispersion Behavior of a Nonionic Surfactant on Surface Activity and Emulsion Stability: J Colloid Interface Sci, 242: 443-449 (2001)
研究のイメージ
