研究項目及び実施体制
特異性改変植物レクチンライブラリーの作成と細胞交通プローブとしての利用
(入村達郎/東京大学大学院薬学系研究科)
研究の目的
植物には未知の能力が秘められており、これらの能力を担う分子は新しい生物学の領域を切り開くツールとして高い価値を持つ可能性がある。植物レクチンもその一つである。天然に得られる糖鎖認識分子として植物レクチンは既に利用されていたが、有用なものの数は限られていた。本研究では、多数の植物レクチンをライブラリーとして創製し、有用なものを選別する方法を確立し、これらを実際に糖鎖生物学の新しい領域に利用することを目的とした。
研究の内容
マメ科レクチンの一つイヌエンジュマメ(Maackia amurensis)レクチンをフレームとして、糖鎖認識部位に遺伝子工学的な改変を行ってライブラリーとした。ランダムクローニング及び細胞に対する結合によってパニングを行い多数のレクチンを得た。これらはいずれも、多様な結合特異性を持つ新規なレクチンであることを証明した。ムチン型糖鎖のペプチド上での付加部位が厳密に制御されている事、付加部位の異なる糖ペプチドを植物レクチンが見分けることを証明した。また、これらの構造が、癌転移、接触過敏症の感作時、消化管上皮の感染性微生物などの細胞交通を制御することを示した。
主要な成果
- 多様な糖鎖認識特異性を持つ植物レクチンを創製する方法を確立し、約300種の改変レクチンを得た。
- 改変レクチンを植物で生産する方法を確立した。
- ムチン型糖鎖のベプチド上での付加部位を決定する方法を確立し、ムチンのO一グリコシレーションにおける個々のN一アセチルガラクトサミン転移酵素の相対的な寄与を明らかにした。また、得られた糖鎖ペプチド複合体と、レクチンとの相互作用を測定し、レクチンが高次の特異性を持つことを初めて示した。
- 癌転移、接触過敏症、上皮の感染において、レクチンとそのリガンドの相互作用が重要であることを明らかにした。
- レクチンライブラリーをバイオインフォーマティックスの道具として用いるための基礎が築かれた。
主な発表論文
- Sato K., et al. : Contribution of dermal macrophage trafficking in the sensitization phase of contact hypersensitivity: J. Immunol, 161: 6835-6844 (1998)
- lida S., et al. : Interaction of human macrophage C-type lectin with o-linked N-acetylgalactosamine residues on mucin glycopepetide: J Biol. Chem., 274: 16, 10697-10705 (1999)
- Ota M., et al. : Involvement of cell surface glycans in adhesion of human colon carcinoma cells to liver tissue in a frozen section assay: role of endo- β-galactosidase-sensitive structures: Cancer Res., 60: 5261-5268 (2000)
- Yim M., et al. : Mutated plant lectin library useful to identify different cells: Proc Nat Acad Sci USA, 98: 2222-2225 (2001)
- Kato K., et al. : N-acetylgaractosamine incorporation into a peptide containing consective threonine residues by UDP-N-acetyl-D-galactosaminide: polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferases: Glycobiol, 11 : 821 -829 (2001)