生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 研究成果

細胞に作らせる糖鎖ライブラリーと機能性糖鎖高分子

研究項目及び実施体制(◎は総括研究代表者)

  • 糖鎖プライマーの合成
    (橋本弘信/東京工業大学生命理工学部)
  • 糖鎖ライブラリーの作製と糖鎖高分子の開発
    (◎佐藤智典/慶應義塾大学理工学部)
  • 糖鎖プライマーの細胞生物学的影響の評価
    (山形達也/財団法人日本皮革研究所糖鎖情報工学)

研究の目的

糖鎖生物学の進展に伴い、生体反応における糖鎖の多彩な機能が明らかにされてきたが、その成果は殆ど産業に生かされない。そこで、本研究では細胞をオリゴ糖鎖の工場として利用して、糖鎖ライブラリーを構築する。さらに、得られた糖鎖の機能解析を行い、優れた機能を有した糖鎖を素材とした機能性糖鎖高分子を作製し、糖鎖の自由な供給に立脚した新たな産業の創出を目指す。

研究の内容

本研究は、各種の動・植物細胞を細胞工場として利用するという新しい発想により、糖鎖に疎水基を付けた「糖鎖プライマー」を細胞に与え、オリゴ糖鎖を付加・分泌させる方法により多岐にわたる糖鎖ライブラリーを細胞に作らせる。細胞はその由来によって細胞特異的な構造の糖鎖を合成しているので、糖鎖プライマーを与える細胞を変えることにより、様々な糖鎖を細胞外に合成・分泌させることが出来る。この方法を「バイオコンビナトリアル合成法」と呼ぶ。このようにして得られた糖鎖ライブラリーを高分子化して高機能化する手法および糖鎖チップを作製する手法を開発することで、糖鎖ライブラリーの利用方法についても検討する。

主要な成果

  • 糖鎖プライマーとして、糖鎖構造の異なるもの17種類、アグリコン部分の構造の異なるもの12種類を合成して、約10種類の細胞での糖鎖伸長反応について検討した。その結果多くの糖鎖プライマーで糖鎖伸長反応が確認された。その結果、特に糖鎖構造がラクトースやN-アセチルグルコサミンであり、アグリコンがドデシル基を有する糖鎖プライマーは効率よく多種類の糖鎖伸長生成物を与えた。また、糖鎖プライマーの糖鎖伸長反応効率や細胞毒性にはアグリコンの構造や糖のアノマーが影響していた。これまでに糖鎖伸長生成物として約50種類のオリゴ糖鎖が確認された。また、一部の糖鎖プライマーでは、糖脂質生合成経路だけではなくN-グリカン生合成経路も利用されていることが明らかとなった。
  • マイクロキャリア法を用いて大量培養を行い、生成物の単離をカラムクロマトグラフィーと液体クロマトグラフィーにより行うことで、細胞で作られた糖鎖伸長生成物の大部分が単離可能であることを示した。
  • 2-アジドドデシルをアグリコンとするプライマーへの糖鎖伸長とプライマーの還元およびアルキル化を検討した。さらに、細胞内で糖鎖伸長されたGM3型の化合物からの高分子化を行った。
  • 糖鎖プライマーはエネルギー依存的に取り込まれるが、クラスリン経由で細胞に取り込まれるとリソソームに直行して分解され、しかし一方で糖脂質と違ってカベオラ経由で取り込まれることはなく、それ以外の経路によることが分かった。

主な論文発表

  • H. Yuasa and H. Hashimoto : Bending Trisaccharides by a Chelation-Induced Ring Flip of a Hinge-like Monosaccharide Unit, J. Am. Chem. Soc.121: 5089-5090 (1999)
  • Kasuya, Maria Carmelita, et al. : T., Azido primer : A new building block for the biocombinatorial synthesis of glycosphingolipid analoges, Carbohydarate Res., 329 : 755-763 (2000)
  • Y. Kajihara, et al. : Galactosyl Transfer Ability ofβ-( 1-4)-Galactosyltransferase toward 5α-Carba-sugars,Carbohydr. Res., 323, 44-48 (2000)
  • T. Ishii, et al. : Facile Preparation of a Fluorescence-labeled Plasmid, Chem. Lett : 386-387(2000)

研究のイメージ

細胞に作らせる糖鎖ライブラリーと機能性糖鎖高分子