研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 耐乾性ラン藻の耐乾機構解明とラン藻を利用した荒廃土壌修復技術の開発
(大森正之/東京大学大学院総合文化研究科) - パイオニア植物におけるエンドフィテイック共生微生物の機能解明とその利用技術開発
(南澤 究/ 東北大学大学院生命科学研究科) - パイオニア植物におけるVA菌根菌の機能解明とその利用技術開発
(◎齋藤雅典/独立行政法人 農業環境技術研究所(前 畜産草地研究所)) - 共生微生物等の機能を活用した荒廃土壌の新修復技術の開発
(丸本卓哉/山口大学農学部 )
研究の目的
世界的に土壌の劣化・荒廃が進行しており、その修復は緊急に解決を要する。養分が枯渇し乾燥ストレスにさらされる荒廃土壌における緑化修復を促進するために、植物に共生しその養分獲得を助ける微生物等に着目し、これらの微生物機能を活用した新たな緑化修復技術の開発を目指す。
研究の内容
荒廃土壌のパイオニア生物の一種である土壌性ラン藻についてその耐乾性と土壌被覆効果を、また、パイオニア性の野生植物の茎葉部に共生する内生窒素固定菌と根部に共生しリン等の養分吸収を助けるVA菌根菌の生理機能の解明を進める。さらに、荒廃土壌の植生回復過程におけるこれら微生物の役割を解明し、微生物を利用した新たな土壌修復技術を提案する。
主要な成果
- ラン藻の耐乾性は、cAMPを介した細胞内情報伝達機構によって調節されていることを明らかにし、cAMP結合タンパク質(転写因子)を同定した。
- 荒廃土壌のパイオニア性植物に、Clostridium属細菌と非窒素固定細菌からなる嫌気窒素固定コンソ-シアム(複合微生物共同体)が普遍的に存在していることを発見した。
- 植物の根に共生するVA菌根菌の菌糸はきわめて発達した管状液胞構造を有していることを初めて見出し、こうした細胞内構造が菌糸内のリン酸輸送に必要であることを明らかにした。
- 土壌性ラン藻は土壌被覆効果によって乾燥条件下における植物の定着に寄与しており、また嫌気性窒素固定コンソーシアムは、非マメ科植物体内における窒素固定のみならず植物の塩類ストレス耐性に、寄与していることを明らかにした。
- 雲仙普賢岳・ピナツボ火山の泥流地帯における現地調査を通して、火山性泥流地帯における植生回復にVA菌根菌含有資材が有効であることを実証し、またVA菌根菌が植生遷移を促進することによって植生回復に寄与していることを明らかにした。
見込まれる波及効果
ラン藻及び共生微生物等を利用した新規土壌修復技術の開発。
主な発表論文
- Yoshimura, H., et al.: Identification and characterization of a novel cAMP receptor protein in the cyanobacteriumSynechocystis sp. PCC 6803. J. Biol. Chem., 275, 6241-6245 (2000)
- Yoshimura, H., et al.: Screening for the target gene of cyanobacterial cAMP receptor protein SYCRP1. Mol. Microbiol., 43, 843-853 (2002).
- Elbeltagy, A., et al.: Endophytic colonization and in planta-nitrogen fixation by Herbaspirillum sp. isolated from wild rice.Appl. Environ. Microbiol., 67, 5285-93(2001)
- Uetake, Y., et al.: Extensive tubular vacuole in Gigaspora margarita. New Phytol., 154, 761-768(2002)
- Yokoyama, K., et al.: A molecular marker diagnostic of a specific isolate of an arbuscular mycorrhizal fungus, Gigaspora margarita. FEMS Miccrobiol. Lett., 212, 171-175(2002)