生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 研究成果

環境化学物質応答の分子機構の解明

研究項目及び実施体制

環境化学物質応答の分子機構の解明
(高橋 智/筑波大学 基礎医学系・生命科学動物資源センター)

研究の目的

本研究では、環境化学物質に対する応答が転写因子レベルでいかに統合され、遺伝子の誘導的発現を引き起こし、化学物質に対する生体防御機構を形成するのか、また、その破綻からどのような異常が生体に発現するのかを解析することを目的とする。

研究の内容

環境化学物質応答の分子機構を明らかにするために、その「鍵」分子の遺伝子改変マウスを作製し、その表現型を解析することにより、それらの「鍵」分子が、環境化学物質応答においてどのような機能を有しているかを明らかにする。また、作製した遺伝子改変マウスの環境化学物質モニター動物としての応用を検討する。

主要な成果

  • 環境化学物質応答の「鍵」分子である、転写因子Nrf2、Nrf3、Bach1、AhRRおよびNrf2の制御分子であるKeap1の欠損マウス、ヒト型ダイオキシン受容体(AhR)挿入マウスを作製した。
  • Nrf2と転写因子である小Maf群タンパク質のヘテロ2量体が、解毒反応制御の中心的機能を担っていることを遺伝子改変マウスを用いて個体レベルで明らかにした。また、小Maf群タンパク質のDNA結合配列認識機構をNMR解析により明らかにした。
  • Nrf2欠損マウスでは、化学物質の代謝機能が低下しており、薬物等の副作用が顕著に現れることが明らかとなった。Nrf2欠損マウスは、薬物副作用のモニター動物として利用可能であることを明らかにした。
  • マウス本来のAhRに換えてヒトAhRのみを発現するヒト型AhR挿入マウスを国立環境研究所との共同研究により開発した。ヒトに対するダイオキシンの毒性評価に使用できるものと考えられる。
  • 転写因子Nrf2の制御分子であるKeap1の欠損マウスを作製し解析したところ、Keap1が生体内でNrf2制御の中心的な機能を担っていることを明らかにした。Keap1の機能を調節することにより、環境化学物質に対して抵抗性のマウスを作製することが可能となった。

見込まれる波及効果

本研究により作製した、Nrf2、Nrf3、Bach1、Keap1、AhRRそれぞれの欠損マウス、ヒト型AhR挿入マウスなどの環境応答マウスライブラリーは、今後、環境中に存在する化学物質や薬品の副作用のモニタリングに、大いに利用されると考えられる。

主な発表論文

  • Motohashi H, et al. Positive or negative MARE-dependent transcriptional regulation is determined by the abundance of small Maf proteins. Cell. 103, 865-875, 2000.
  • Kusunoki H, et al. Solution structure of the DNA-binding domain of MafG. Nat Struct Biol. 4, 252-256, 2002 .
  • Hirotsune S, et al. Unique role of an expressed pseudogene as a functional non-coding RNA to regulate mRNA stability from its homologous coding gene. Nature. 423, 91-96, 2003.
  • Moriguchi T, et al. Distinct response to dioxin in an arylhydrocarbon receptor (AhR)-humanized mouse. Proc Natl Acad Sci U SA. 100, 5652-5657, 2003.
  • Wakabayashi N, et al. Keap1-null mutation leads to postnatal lethality due to constitutive nrf2 activation. Nat Genet. 35, 238-245, 2003.

研究のイメージ

環境化学物質応答の分子機構の解明