生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 研究成果

穀類細胞への新たな遺伝子導入法の開発

研究項目及び実施体制

穀類細胞への新たな遺伝子導入法の開発
(野々村 賢一/国立遺伝学研究所 実験圃場)

研究の目的

野生植物は様々な有用遺伝子を保有することが知られている。しかしその遺伝子資源を育種に有効利用するための手法は必ずしも整備されていない。本研究はモデル作物であるイネを素材として、(1)遺伝子操作育種のための新規ベクターの開発に向けた試み、(2)遺伝子操作に頼らない、人為交配による新たな育種手法の開発に向けての遺伝学的な基盤の確立を目的とする。

研究の内容

  • イネの人工染色体の構築
    細胞分裂の際、染色体を均等に分配するのに重要な「動原体」領域のイネにおける構成と、動原体結合タンパク質を解析した。動原体DNAを単離し、試験管内での再構築後にイネ細胞へ再導入した。
  • 野生イネ有用遺伝子の栽培イネへの新たな導入法の検討
    交配による遺伝子導入で問題となるのが、雑種第一代目の減数分裂で生じる生殖バリアーである事から(図参照)、突然変異体を用いて減数分裂に関わるイネ遺伝子の同定と、その機能解析を行った。

主要な成果

  • 動原体特異的な繰り返し配列RCE1を同定し、イネ第5染色体での分布の概要を明らかにした。
  • ヒト動原体タンパク質CENP-Aと相同な配列を持つイネCHR1タンパク質 (Centromeric Histone of Rice 1) を同定し、動原体特異的な繰り返し配列Cent-Oに選択的に結合することを明らかにした。
  • 減数分裂細胞で特異的に発現する新規イネ遺伝子PAIR1を同定し、減数分裂期の相同染色体対合に必須の機能を持つことを見出した。また野生イネのPAIR1遺伝子座では、栽培イネと比較して多くのDNA変異が蓄積されていたことから、PAIR1が減数分裂における生殖バリアーと関係している可能性が示唆された。
  • 染色体対合を仲介するシナプトネマ複合体の形成に必須の機能を持つ新規イネ遺伝子PAIR2を同定した。
  • イネ生殖細胞の分化過程で、細胞の運命決定に重要な役割を果たす新規遺伝子MSP1を同定した。

見込まれる波及効果

上記の遺伝子や知見は、麦類やトウモロコシなど他のイネ科穀類での応用が期待できる。本研究を基盤として実用的な遺伝子導入法が確立できれば、遺伝子資源を有効に活用したイネ科穀類の育種が可能となる。

主な発表論文

  • Nonomura K.I. and Kurata N. The centromere composition of multiple repetitive sequences on rice chromosome 5.Chromosoma, 110: 284-291 (2001)
  • Kurata, N., et al. Rice genome organization: the centromere and genome interactions. Annals Bot., 90: 427-435 (2002)
  • Nonomura K.I., et al. The MSP1 gene is necessary to restrict the number of cells entering into male and female sporogenesis and to initiate anther wall formation in rice. Plant Cell, 15: 1728-1739 (2003)
  • Nonomura K.I., et al. The insertional mutation of rice PAIR2 gene, the ortholog of Arabidopsis ASY1, caused a defect in homologous chromosome pairing in meiosis. Mol. Genet. Genomics, in press.

研究のイメージ

穀類細胞への新たな遺伝子導入法の開発