生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 研究成果

ミツバチの脳機能に働く遺伝子を利用した新品種開発等に関する基礎的研究

研究項目及び実施体制

ミツバチの脳機能に働く遺伝子を利用した新品種開発等に関する基礎的研究
(久保健雄/東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)

研究の目的

ミツバチはハチミツ生産やポリネーターとしての利用等、農業分野で活用されている。一方で、社会性昆虫としてカースト分化や働き蜂の分業等の社会行動を示すほか、ダンス言語により花の位置を教えるという高次行動を示すことから、分子生物学の研究対象としても注目されている。本研究ではこうしたミツバチの行動を規定する遺伝子を同定し、その成果を他生物種にも敷衍することで脳神経科学に寄与するとともに、これらの遺伝子の発現を人為的に調節することで、ミツバチの性質を改変するための基礎的技術の開発を目的とした。

研究の内容

ミツバチの行動を規定する遺伝子として、(1) ミツバチ脳の高次中枢(キノコ体)選択的に発現する遺伝子と、(2) 行動選択的に脳で発現する遺伝子を考えた。これらの遺伝子を同定し、遺伝子産物の機能を明らかにするとともに、他動物種におけるホモログの機能解析を行う。合わせて、当該遺伝子の発現を人為的に調節する方法として、ミツバチ脳への外来遺伝子の導入と、脳機能のアッセイ系を確立する。

主要な成果

  • キノコ体選択的に発現し、Ras/MAPK系により制御される新規な転写因子、Mblk-1を初めて同定した。またその線虫ホモログが、行動可塑性と神経回路の形成に働くことを発見した。さらに、ミツバチ脳から2種類の新規な非翻訳性核RNA、Ks-1とAncR-1を同定し、RNAの新たな分子機能を提唱した。
  • キノコ体選択的に発現する遺伝子をcDNA microarray法により網羅的に検索し、31個の遺伝子を同定した。その結果、キノコ体の介在神経のサブタイプ選択的な遺伝子発現パターンを見出した。
  • 女王蜂の脳で選択的に発現するQM1遺伝子が、新規な神経分泌ホルモンをコードすることを見出した。この分子が、女王蜂固有な行動や生理状態をもたらす可能性を指摘した。
  • 攻撃的な働き蜂の脳に特異的に検出されるRNA、Kakugoが、新規なウイルスのゲノムRNAであることを示し、その感染性を実証した。ウイルス感染がミツバチの攻撃行動に影響する可能性を初めて指摘した。
  • ミツバチの脳機能を調べるためのアッセイ系として、光刺激-口吻伸展反射連合学習系を構築した。また、エレクトロポレーション法を用いて、ミツバチ脳にGFP遺伝子を効率的に導入/発現する方法を開発した。

見込まれる波及効果

ミツバチの「分子社会生物学」とも言える新しい研究分野が開拓されつつあり、学術的意義は大きい。また、今回同定された遺伝子群は、将来のミツバチの新品種開発に向けて利用可能である。

主な発表論文

  • Fujiyuki, T. et al: Novel insect picorna-like virus identified in the brains of aggressive worker honeybees. J. Virol. in press (2004)
  • Park, J.-M. et al: The activity of Mblk-1, a mushroom body selective transcription factor from the honeybee, is modulated by the Ras/MAPK pathway. J. Biol. Chem. 278: 18689-18694 (2003)
  • Kunieda, T. et al: Identification and characterization of Mlk-1, 2: two mouse homologues of Mblk-1, a transcription factor from the honeybee brain. FEBS Lett. 535, 61-65 (2003)
  • Sawata et al: Identification and punctate nuclear localization of a novel noncoding RNA, Ks-1, from the honeybee brain. RNA, 8: 772-785 (2002)

研究のイメージ

ミツバチの脳機能に働く遺伝子を利用した新品種開発等に関する基礎的研究