生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 研究成果

行動特性の育種改良を目指した,家畜の脳内物質関連遺伝子の解析

研究項目及び実施体制

行動特性の育種改良を目指した、家畜の脳内物質関連遺伝子の解析
(村山 美穂/岐阜大学農学部)

研究の目的

日本国内のイヌの飼育数は1000万頭にものぼり,伴侶動物としての需要がますます増加する一方,問題行動も増加している。また平成15年10月に身体障害者補助犬法が施行され、盲導犬など有用犬の役割が社会的に浸透してきたものの、その育成は困難で,供給数は不足している。本研究では、遺伝子を指標とした有用犬適性個体の育成および,家畜の生産性向上を目指して、ヒトにおいて性格との関連が報告されている脳内物質関連の遺伝子多様性を、イヌなどの家畜で探索し、品種や個体の行動特性との関連を解析した。

研究の内容

ヒトではドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の受容や輸送に関与する様々なタンパク質の遺伝子の個人差と性格や精神疾患との関連が報告されている。それら遺伝子の多様性を、イヌ、ウシ、ニワトリなどの家畜や家禽、およびヒトに系統的に近い霊長類で解析した。イヌではドーパミンD4受容体遺伝子等に多型領域を見いだし、品種間や個体間の比較を行った。また有用犬の訓練個体の行動特性評価や合否と遺伝子型の関連を解析した。

主要な成果

  • イヌでは、ドーパミン受容体D4遺伝子のエキソン3,エキソン1,イントロン2の3箇所、セロトニン受容体1Α遺伝子,アンドロゲン受容体遺伝子において、品種ごとのアレル頻度分布を解析した。品種の行動特性評価との比較から、特定のアレルと「攻撃性」や「社会性」に関連を見いだした。
  • ニワトリのドーパミン受容体D4遺伝子エキソン1領域にも多型を発見し、品種によるアレル頻度の差違を明らかにした。
  • 霊長類では8遺伝子で多型を見いだし、種間および種内のアレル頻度分布の比較を行った。培養細胞において、反復配列が、レポーター遺伝子の発現量に影響することを見いだした。飼育チンパンジーの行動特性評価と遺伝子型に関連性を見いだした。
  • イヌ脳内でのドーパミン受容体D4の分布を,脳組織のウエスタンブロッティングおよび免疫組織染色によって明らかにした。
  • 盲導犬、麻薬探知犬の候補において、個体の行動特性と遺伝子型の関連性を見いだした。また盲導犬の発達および訓練過程での行動特性の変化から、遺伝子と環境それぞれの影響を受ける時期や強さを解析した。

見込まれる波及効果

本研究の成果により,遺伝子型判定による有用犬の早期段階での選別や適性に合った訓練法の工夫,ストレスを感じにくく、生産性の高い家畜・家禽の育種改良への応用が期待される。

主な発表論文

  • 新美陽子他:イヌにおけるドーパミン受容体D4遺伝子多型領域の解析:DNA多型, 9:100-104 (2001)
  • Niimi, Y., et al.: Breed differences in allele frequency of the dopamine receptor D4 gene in dogs: J. Hered., 92(5):433-436 (2001)
  • 井上(村山)美穂他:イヌにおけるドーパミン受容体D4遺伝子多型と行動特性との関連:DNA多型, 10:64-70 (2002)
  • Inoue-Murayama, M., et al.: Sequence Comparison of the Dopamine Receptor D4 Exon III Repetitive Region in Several Species of the Order Carnivora: J. Vet. Med. Sci., 64 (8): 747-749 (2002)
  • Inoue-Murayama, M., et al.: Variation of variable number of tandem repeat sequences in the 3'-untranslated region of primate dopamine transporter genes that affects reporter gene expression: Neurosci. Lett., 334:206-210 (2002)

研究のイメージ

行動特性の育種改良を目指した,家畜の脳内物質関連遺伝子の解析