生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 研究成果

カイコの遺伝子機能解析システムの構築

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 形質転換カイコの作出効率の向上と利用技術の開発
    (◎田村俊樹/独立行政法人 農業生物資源研究所)
  • カイコ全発現遺伝子のcDNAチップの作製とその利用の技術開発
    (三田和英/独立行政法人 農業生物資源研究所)
  • 形質転換系、既存突然変異およびDNAチップを用いたカイコ遺伝子の機能解析
    (嶋田 透(15年度まで小林正彦)/東京大学大学院 農学生命科学研究科)

研究の目的

昆虫を用いたバイオテクノロジー産業を創出するためには、遺伝子機能を解析するシステムの構築が不可欠である。本研究では、産業昆虫として我国に卓越した知見が蓄積されているカイコを対象として、形質転換体の効率的な作出法の確立と導入遺伝子の発現制御法の開発、発現遺伝子のデータベース化とDNAチップの作出を行うとともに、これらを基に開発された系を利用して昆虫特異的な遺伝子機能を解析し、そのシステムの有効性を実証する。得られた成果は新たな昆虫産業等の創出をめざした応用研究の加速化に資する。

研究の内容

  • カイコの形質転換体の効率的な作出法を開発するため、卵へのDNAの注射方法や新しいベクターの開発を行うとともに導入遺伝子の発現制御、遺伝子機能解析に必要な系を整備する。
  • カイコESTの大量シークエンシングとデータベースの構築を行い、得られた塩基配列をもとにDNAチップを作出する。
  • 形質転換系やデータベース、DNAチップ等上記成果を利用して、休眠や性決定機構などの解析を行い、開発された遺伝子機能解析システムを検証する 。

主要な成果

  • 形質転換カイコの作出効率が従来の数十倍と飛躍的に改善されるとともに、キヌレニン酸化酵素遺伝子等既存特許に抵触しない新しいベクターを開発した。また、ゲノム中に挿入された遺伝子を人為的に転移させ、得られる変異から遺伝子機能を解析する系を作出した。
  • 全発現遺伝子の80%以上をカバーするESTデータベースを構築した。これを利用して17,000個の独立ESTに対応するDNAチップを作出し、内外に提供できる体制を整えた。
  • 開発されたシステムを利用して、休眠や性決定、ウイルス感染などの昆虫特異的な機能を解析し、本システムの有効性を実証した。同時に、これら機能の関連遺伝子の同定と機能解析を行った。

見込まれる波及効果

  • カイコ遺伝子機能解析システムが整備され、遺伝子の網羅的解析やトランスポソンによる突然変異の誘発などポストゲノム研究の飛躍的な発展が期待できる。
  • 「昆虫工場」等応用研究プロジェクトにカイコ形質転換体を利用し、機能性生糸、医薬品原料等カイコを使った新しい素材や有用物質の生産が可能になる。
  • カイコの成果を他の昆虫に応用し、DNAチップ等を用いた遺伝子の網羅的解析や農薬の標的遺伝子の同定により、環境調和型の害虫管理技術に途を開く。

主な発表論文

  • Imamura M., et al. Targeted gene expression using the Gal4/UAS system in the silkworm Bombyx mori. Genetics 165: 1329-1340(2003)
  • Mita K., et al. The construction of an EST database for Bombyx mori and its application. Proc.Natl. Acad.Sci.USA 100: 14121-14126(2003)
  • Suzuki M., et al. Role of the male BmDSX protein in the sexual differentiation of Bombyx mori. Evolution and Development 7: 58-68 (2005)

研究のイメージ