研究の目的
植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)は、乾燥、塩、低温ストレス応答や耐性の獲得、種子の成熟、休眠さらに発芽の制御、葉の老化などの重要な生理機能に関わっている。本研究では、ゲノム解析の進んでいるシロイヌナズナやイネを用いて、ABAの生合成・分解、受容、シグナル伝達、遺伝子発現に関わる制御因子の遺伝子の同定とその機能解析を行い、ABA の環境ストレス応答や種子成熟・休眠・発芽過程におけるABA の生理機能の制御機構を解明する。これらの制御因子を用いた遺伝子導入によりABA の生理機能を人為的に制御して、環境ストレス耐性の分子育種に利用する。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 植物ホルモンアブシジン酸の合成・分解の制御及びシグナル受容機構の解明とバイオテクノロジーへの応用
(◎篠崎 一雄/(独)理化学研究所) - 植物ホルモンアブシジン酸による遺伝子発現制御、シグナル伝達機構の解明とバイオテクノロジーへの応用
(篠崎 和子/(独)国際農林水産業研究センター)
研究の内容及び主要成果
ABA の生合成・分解、受容、シグナル伝達、遺伝子発現に関わる主要な制御因子の遺伝子を同定し、ABA 応答のシグナル伝達系、遺伝子制御系の主要な経路を明らかにした。
- ABA の生合成の主要な酵素NCED3・分解酵素CYP707A3を同定し、遺伝子操作によりABA レベルの制御に成功した。また乾燥ストレス耐性の付与にも成功した。これをシロイヌナズナからイネに応用展開した。
- ABA 応答の受容に関わると推定されるレセプター型プロテインキナーゼRPK1を同定した。RPK1はストレス応答、種子発芽、根の伸張、老化などABA 応答の上流のシグナル伝達因子であると考えられる。
- ブシジン酸を介して乾燥・塩ストレスによって誘導される遺伝子発現を制御する転写因子(AREB, MYB2, MYC2,NAC)を同定し、ABA による遺伝子発現の分子機構における役割を明らかにした。マイクロアレイにより、これらの転写因子により多数のストレス誘導性遺伝子を同定した。
- ABA による遺伝子発現を制御する転写因子(AREB,MYC,MYB)やプロテインキナーゼ(SnRK2)などの遺伝子を用いることにより、高レベルの乾燥ストレス耐性植物の作出に成功した。
見込まれる波及効果
本研究で機能を明らかにしたABA の生合成・分解、受容、シグナル伝達、遺伝子発現に関わる主要な制御因子の遺伝子群は、バイオテクノロジーを用いた乾燥・塩ストレス耐性作物開発に利用できる。さらに乾燥耐性植物の作出や種子の発芽などを制御する技術が確立されれば、世界の気候変化に対応した食料の安定生産に貢献できると考えられる。
主な発表論文
- Furihata, T., et al.: ABA-dependent multisite phosphorylation regulates the activity of a transcription activator AREB1. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, in press (2006)
- Fujita Y., et al.: AREB1 is a transcription activator of novel ABRE-dependent ABA-signaling that enhances drought stress tolerance in Arabidopsis. Plant Cell 17: 3470-3488 (2005)
- Katagiri T., et al.: An important role of phosphatidic acid in ABA signaling during germination in Arabidopsis thaliana. Plant J. 43:107-117 (2005)
- Osakabe Y., et al.: An LRR receptor kinase, RPK1, is a key membrane-bound regulator of abscisic acid early signaling in Arabidopsis. Plant Cell 17: 1105-1119 (2005)
- Umezawa T., et al.: SRK2C, a SNF1-related protein kinase 2 protein kinase that improves drought tolerance by controlling stressresponsive gene expression in Arabidopsis thaliana. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 101: 17306-17331 (2004) Abe H., et al.: Arabidopsis AtMYC2 (bHLH) and AtMYB2 (MYB) function as transcriptional activators in abscisic acid signaling.Plant Cell 15: 63-78 (2003)
研究のイメージ
