生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 研究成果

人工制限酵素を用いた高等生物の遺伝子操作とニュー・バイオテクノロジーの創成

研究の目的

ヒトをはじめとする種々の生物のゲノム解析の完成に伴い、遺伝子操作の対象が下等生物から高等生物へと移行することは必定である。ところが、高等生物の染色体DNA は非常に巨大であり、天然の制限酵素では、所定の一箇所で切断することができない。高等生物を対象とする遺伝子操作を実現するには、天然酵素よりも長いDNA 塩基配列を認識する人工制限酵素がどうしても必要である。また、高等生物の特定のRNA を精密に解析するにも、あるいは、これを選択的に分解して対応する遺伝子の発現を制御するにも同様の特異性が必要となる。
本研究では、望みの特異性で所定の位置を選択的に切断する人工制限酵素ならびにRNA カッターを開発し、これを用いてバイオテクノロジーに新機軸を切り開く。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 工制限酵素の構築
    (◎小宮山 真/東京大学先端科学技術研究センター)
  • 高等生物の遺伝子操作
    (浅沼 浩之/名古屋大学大学院工学研究科)

研究の内容及び主要成果

  •  Ce(IV)/ EDTA 錯体(DNA 切断触媒)とペプチド核酸PNA(DNA 塩基配列認識部位)とをハイブリッド化することにより、人工制限酵素(ARCUT = Artificial Restriction DNA CUTter)を開発した。ARCUT に使用するPNA の配列や長さは目的に応じて自在に変えられるために、巨大DNA でも思い通りの位置で選択的に切断できる。実際に、プラスミドDNA(数千塩基対)やファージDNA(数万塩基対)のみならず、これらよりもはるかに巨大な大腸菌ゲノムDNA(数百万塩基対)を所定位置で選択的に切断することに成功した。さらに、ARCUT を用いて調製した組み換えタンパクが哺乳動物細胞内で正常に発現することも確認した。こうして、巨大DNA の操作ツールとしてのARCUT の有用性を実証した。
  • 切断標的部位の正面にアクリジンを導入した修飾オリゴヌクレオチドと希土類イオン(III)とを併用することにより、RNAの所定部位を選択的に切断できるカッターの開発に成功した。さらに、このRNA カッターを用いてmRNA から小断片を切り出し、その分子量を測定することでSNP や塩基挿入・欠損(indel)を正確に解析した。

見込まれる波及効果

本研究で開発したARCUT は、巨大DNA を望みの位置で自在に切断できる世界で唯一のツールである。しかも、天然制限酵素と同様にリン酸ジエステルの加水分解でDNAを切断するので、現状のバイオテクノロジーとのマッチングも極めて良好である。効率的な医療、動植物の品種改良、有用物質の生産をはじめとして広範な応用が期待される。

主な発表論文

  • Yamamoto Y., et al.: Site-selective and hydrolytic two-strand scission of double-stranded DNA using Ce(IV)/EDTA and pseudocomplementary PNA. Nucleic Acids Res. 32: e153 (2004).
  • Chen W., et al.: Site-selective DNA hydrolysis by combining Ce(IV)/EDTA with monophosphate-bearing oligonucleotides and enzymatic ligation of the scission fragments. J. Am. Chem. Soc. 126: 10285-10291 (2004).
  • Kuzuya A., et al.: Selective activation of two sites in RNA by acridine-bearing oligonucleotides for clipping of designated RNA fragments. J. Am. Chem. Soc. 126: 1430-1436 (2004).
  • Kuzuya A., et al.: Metal ion-induced site-selective RNA hydrolysis by use of acridine-bearing oligonucleotide as cofactor. J. Am.Chem. Soc. 124: 6887-6894 (2002).
  • Kitamura Y. and Komiyama M.: Preferential hydrolysis of gap and bulge sites in DNA by Ce(IV)/EDTA complex.Nucleic Acids Res. 30: e102 (2002).

研究のイメージ

人口制限酵素を用いた高等生物の遺伝子操作とニュー・バイオテクノロジーの創成