研究の目的
アリジゴクの吐き戻し液は獲物に対して毒性を示し、しかも獲物は昆虫病原菌に感染したかのように黒変して致死する。本研究では、このような研究代表者自らが発見した現象に寄与する昆虫病原微生物群の実態を解明する。さらに、昆虫病原微生物に起源を有する殺虫性蛋白質の構造および作用機構を解明することによって、生物農薬として利用可能な微生物の新たな探索法や未解明の昆虫の弱点を提示することを目指す。
研究項目及び実施体制
- アリジゴクに共生する微生物の昆虫病原性の評価
- 病原微生物に起源を有する殺虫性蛋白質の構造解明
- 殺虫性蛋白質の活性発現機構の解明とその調節分子の探索
(松田 一彦/近畿大学農学部)
研究の内容及び主要成果
- アリジゴクのそ嚢に含まれる細菌類の殺虫効果を評価した結果、新規細菌を含む多数の細菌類が注射あるいは経口投与で顕著な殺虫活性を示すことを見出した。また、そ嚢内容物に含まれる16S rRNA 遺伝子を解析することによって、数種の殺虫性細菌がそ嚢内で主要な菌種として存在することを明らかにした。
- クロコウスバカゲロウ幼虫から得た細菌類のうちB. cereus および新規Bacillus 属細菌が産生する殺虫性蛋白質と、クロコウスバカゲロウ幼虫の吐き戻し液に含まれる殺虫性蛋白質の構造を解明した。
- 殺虫性蛋白質の標的となる可能性を有する神経イオンチャネルの機能を、パッチクランプ法によって長時間にわたり安定して記録する方法を確立する一方、B. cereus が産生するsphingomyelinase C がその触媒機能によって殺虫活性を生じていることを明らかにした。
見込まれる波及効果
本研究によって得られた、生きているアリジゴクのそ嚢に多数の昆虫病原菌が共生しているという概念は、他の吸汁性肉食昆虫にも外挿可能であると推察される。この発見は、従来土壌や昆虫の死体を探索するのが常であった昆虫病原菌の探索法に対して再考を迫り、合成農薬の使用量の軽減やB. thuringiensis 耐性問題の解決に貢献する新たな生物農薬の可能性を開くと考えられる。
主な発表論文
- Ihara M., et al. : Differential blocking actions of 4'-ethynyl-4-n-propylbicycloorthobenzoate (EBOB) and γ-hexachlorocyclohexane on γ-aminobutyric acid and glutamic acid-induced responses of American cockroach neurons. Invert Neurosci 5 : 157-164(2005)
- Nishiwaki H., et al. : Purification and functional characterization of insecticidal sphingomyelinase C produced byBacillus cereus. Eur J Biochem 271 : 601-606 (2004)
- Morimoto M., et al. : Evaluation of calcium-alginate gel as an artificial diet medium for bioassays on common cutworms. J Agric Food Chem, 52 : 4737-4739 (2004)