生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 研究成果

非メチオニン型翻訳開始機構の解析とその利用法の開発

研究の目的

昆虫のプラス鎖RNA ウイルスであるチャバネアオカメムシ腸管ウイルス(Plautia stali intestine virus、 PSIV)の外被タンパク質コード領域の上流には、AUG コドンに依存せずにタンパク質の合成開始を行わせるRNA 配列(Intergenic Internal ribosome entry site, IGR-IRES)がある。一般には、開始メチオニンtRNA を使用しないタンパク質の合成開始は不可能とされていたため、この昆虫ウイルス由来のRNA 配列の機能を解析し、様々なアミノ酸からのタンパク質合成開始を可能にすることを目的とした。

研究項目及び実施体制

  • IGR-IRES の翻訳開始機構の解析
  • IGR-IRES の利用法の開発
    (中島 信彦/(独)農業生物資源研究所)

研究の内容及び主要成果

  • 約200塩基のRNA から構成されるPSIV のIGR-IRES の中で、一本鎖状態にある塩基が40S リボソームに翻訳開始因子を介さずに直接認識されることを明らかにし、その一次配列が類縁ウイルスで保存されていることを示した。
  • IGR-IRES の中で、タンパク質合成開始点決定の役割を担う領域は、その上流部分に形成されるシュードノットの形成に依存してリボソーム上に正しく配置されることを示した。
  • IGR-IRES 類似の安定した二次構造を形成しうる塩基配列は真核生物の塩基配列データベースには登録されておらず、開始tRNA を介さない翻訳開始はジシストロウイルスに特異的な現象と考えられた。
  • 自然界のジシストロウイルス遺伝子では、グルタミンまたはアラニンからのタンパク質合成開始しか報告されていない。しかし、翻訳第一コドンを変異させたところ、いずれの伸長反応用tRNA による翻訳開始も可能であった。無細胞タンパク質合成法でIGR-IRES を使用することにより、いろいろなアミノ酸をN 末端に持つタンパク質の合成が可能になった。
  • IGR-IRES を介した翻訳効率を向上させるには、異種遺伝子の配列がIGR-IRES の高次構造形成を妨げないようにする必要がある。

見込まれる波及効果

開始メチオニンtRNA を使用しないリボソームによるタンパク質合成開始はこれまで不可能とされていたが、ジシストロウイルスのIGR-IRES を使用すれば任意のアミノ酸をN 末に保有するタンパク質の合成が可能になる。分泌タンパク質などN 末端がメチオニンではないタンパク質を無細胞系で直接合成するために利用できる。

主な発表論文

  • Shibuya N., et al.: Cell-free synthesis of polypeptides lacking an amino-terminal methionine by using a dicistroviral intergenic ribosome entry site. Journal of Biochemistry. 136: 601-606. (2004)
  • Hatakeyama Y., et al.: Structural variant of the intergenic internal ribosome entry site elements in dicistroviruses and computational search for their counterparts. RNA 10: 779-786. (2004)
  • Shibuya N., et al.: Conditional rather than absolute requirements of the capsid coding sequence for initiation of methionineindependent translation in Plautia stali intestine virus. Journal of Virology 77: 12002-12010. (2003)
  • Nishiyama T., et al.: Structural elements in the internal ribosome entry site of Plautia stali intestine virus responsible for binding with ribosomes. Nucleic Acids Research 31: 2434-2442. (2003)

研究のイメージ

非メチオニン型翻訳開始機構の解析とその利用法の開発