生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 研究成果

家禽の光周性と排卵・放卵周期の分子機構の解明

研究の目的

温帯に生息する多くの生物の繁殖は明期の長さ(日長)によって制御されており、この性質を光周性と呼ぶ。また家禽は約25-27時間周期で卵を産む。これらの二つの現象は約24時間のリズムを刻む概日時計によって制御されていることが古くから知られていたが、概日時計の実体が不明であったため、その制御機構は謎に包まれていた。本研究では時計遺伝子の発見を突破口として、これら二つの現象を制御する分子機構を解明し、家禽の生産性の向上に資することを目的とする。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 光周性の分子機構の解明
  • 排卵・放卵周期の制御機構の解明
  • 遺伝子導入ウズラの作成
    (◎吉村 崇/名古屋大学大学院生命農学研究科)

研究の内容及び主要成果

  • 光周性の中枢が存在する視床下部内側基底部(MBH)において光周性を制御する鍵遺伝子(Dio2, Dio3)を同定した。その結果、光周性の制御にはMBHにおける甲状腺ホルモンの局所的な活性化が重要であることを明らかにした。さらにDNAチップを用いた網羅的解析により、季節性の繁殖、摂食、体重変化、換羽(毛)などを制御する遺伝子を約200個同定した。
  • 家禽の卵巣に時計が存在することを明らかにし、この時計が卵巣のプロジェステロンのサージ状合成のタイミングを決定することで家禽の排卵・放卵リズムが制御されていることを明らかにした。
  • 鳥類においてはコンディショナルな遺伝子発現制御を達成するトランスジェニック技術が確立されていなかったが、レンチウイルスベクタ-を用いてウズラ成体脳への局所的遺伝子導入法を確立した。

見込まれる波及効果

光周性および排卵・放卵周期の制御機構の解明は家禽、家畜の生産性の向上に直結している。本研究では二つの現象を制御する鍵遺伝子の同定に成功しており、今後生産性の向上に貢献することが期待できる。

主な発表論文

  • Yoshimura T. et al., : Light-induced hormone conversion of T4 to T3 regulates photoperiodic response of gonads in birds. Nature 426 : 178-181 (2003)
  • Watanabe M. et al., : Photoperiodic regulation of type 2 deiodinase gene in Djungarian hamster; Possible homologies between avian and mammalian photoperiodic regulation of reproduction. Endocrinology 145 : 1546-1549 (2004)
  • Yasuo S. et al., : The reciprocal switching of two thyroid hormone-activating and –inactivating enzyme genes is involved in the photoperiodic gonadal response of Japanese quail. Endocrinology 146 : 2551-2554 (2005)
  • Yasuo S. et al., Long-day suppressed expression of type 2 deiodinase gene in the mediobasal hypothalamus of the Saanen goat, a short-day breeder: Implication for seasonal window of thyroid hormone action on reproductive neuroendocrine axis. Endocrinology 147 : 432-440 (2006)
  • Nakao N. et al., Possible involvement of organic anion transporting polypeptide 1c1 in the photoperiodic response gonads in birds. Endocrinology 147 : 1067-1073 (2006)

研究のイメージ

家禽の光周性と排卵・放卵周期の分子機構の解明