生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 研究成果

健康長寿社会に向けた食品開発のための食品物性・感性科学的研究

研究の目的

高齢化が進む中、青壮年とは異なる高齢者向け食品のニーズが高まっている。高齢者は、歯の喪失等により咀嚼能力が低下し、食べられる食品の物性に制約がある。本研究では、高齢者に安心して提供できる食品のために、食べやすさ等の感性的性質を咀嚼圧や脳機能測定等の生理的手法により明らかにし、高齢者の感性に合致した食品物性を提示することを目標とした。具体的には、咀嚼圧センサ等の咀嚼計測技術や、機能的近赤外分光法(fNIRS)による脳活動測定を利用して、食品の食べやすさを体系的に数値化する。さらに一般的な食品物性測定機器により、食べやすさを反映する物性分析法を見出す。これらの生理学・感性科学・物理学的手法を組み合わせることにより、世界に先駆けて、食品物性とそれを食べる人間の感性との関係を解明し、新しい食科学の創造を目指す。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 咀嚼圧計測等による食品感性の解析
  • 摂食中の脳活動の解析
  • 感性を反映した食品のレオロジー特性の解明
    (◎神山 かおる/独立行政法人農業・食品産業技術総合研究所 食品総合研究所)

研究の内容及び主要成果

  • 高齢者向け食品の摂食圧を測定できるシートセンサを開発した。このシートセンサの利用により、食品の力学特性の不均一さを可視化、定量化することに成功し、咀嚼パターンが食品の力学特性や食べ方に応じて変化することを見いだした。
  • 若年者と健常高齢者の咀嚼の特徴を筋電図計測などにより明らかにし、高齢者向けとされていた粥状食品や細かく刻んだ食品の咀嚼量が必ずしも減少していないことを、栄養学や心理学の手法を取り入れて実証した。
  • 高齢者に負担の少ないfNIRS測定法を開発し、食品のフレーバーを官能評価する際の脳活動をfNIRSで解析し、官能評価中における記憶の関与を脳機能イメージングから示した。
  • 日本語テクスチャー表現を収集、整理し、445語を得た。この中から高齢者のテクスチャー語彙152語を用いて、食品の官能評価を行い、食べにくさを数値化した。さらに、一般的な試験機により、食べにくさの主要因となる付着性や噛み切りにくさ等の感性的性質を表現できる測定法を見いだした。

見込まれる波及効果

咀嚼計測を伴う官能評価により、食べにくさに関するパラメータを得ることができ、これとよく対応する機器測定パラメータが明らかになったことから、高齢者向け食品開発を支援できる。
官能評価パネルの脳内認知処理特性を脳計測により示すことができる。食品特性だけでなく、ヒトの摂食プロセスも食感覚を変えるため、食べ方も考慮すべきという、食育の推進においても有用な情報を提供する。

主な発表論文

  • Dan H. and Kohyama K.: Interactive relationship between the mechanical properties of food and the human response during the first bite. Archs Oral Biol. in press
  • Kohyama K., et al.: Mastication efforts on block and finely cut foods studied by electromyography. Food Qual. Prefer. 18: 313-320(2007)
  • Okamoto M., et al.: Prefrontal activity during taste encoding: An fNIRS study. NeuroImage 31: 796-806(2006)
  • Kohyama K., et al.: Direct measurement of lip pressure when ingesting semi-liquid food. J. Texture Studies 35: 554-569(2004)

研究のイメージ

健康長寿社会に向けた食品開発のための食品物性・感性科学的研究