生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 研究成果

染色体断片群の導入によるコシヒカリの複数有用形質の同時改良

研究の目的

我が国を中心とする国際イネゲノム配列解読コンソーシアム(IRGSP)によりイネの全塩基配列が解読された。本研究においては、イネゲノム研究で得られた成果を、コシヒカリを超える新品種の作出に繋げるための基礎情報の獲得並びにツールの確立を行うとともに、コシヒカリの複数有用形質の同時改変をモデルとしてその有用性を実証することを目的とする。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • コシヒカリの特性強化に関する研究
  • 収量特性、ストレス耐性及び良食味を決定する機構の解析
    (◎石丸 健/独立行政法人農業生物資源研究所)

研究の内容及び主要成果

  • 収量特性(千粒重(tgw6)、登熟歩合(くず米減少率の減少rg5)、粒数)、ストレス耐性(耐倒伏性prl5)、米品質(低タンパク質、低アレルゲン、ねばり)に関与する遺伝子座(QTLs)を特定した。コシヒカリの育種において最も重要なターゲットである耐倒伏性と登熟歩合に関わるprl5とrg5の生理機能を明らかにし、染色体領域を1.0cM以下に矮小化した。
  • 高額なSNPsチップと同等の性能を持ち、多ローカスのアレルを簡便かつ短時間で判別できる一塩基多型(SNPs)アレイを低コストで作出する方法を確立した。
  • SNPsアレイを用いてprl5とrg5を導入することで、コシヒカリの耐倒伏性と登熟歩合を同時に改良することが可能であることを明らかにした。食味、出穂等の形質はコシヒカリと同等で、耐倒伏性と登熟歩合が向上したコシヒカリ準同質系統(S2N)の選抜に成功した。

見込まれる波及効果

本研究で得られたQTLsの基礎情報並びに開発したツールは新品種の作出に利用できる。また、確立したSNPsアレイの作出方法は、イネのみならず他の作物及び動物のDNAマーカー選抜育種や品種識別等の様々な農業分野での利用が期待される。

主な発表論文

  • Ishimaru K., et al.: Identification and physiological analyses of a locus for rice yield potential across the genetic background. J. Exp. Bot. 56: 2745-2753 (2005)
  • Ishimaru K., et al.: Leaf contents differ depending on the position in a rice leaf sheath during sink-source transition. Plant Physiol. Biochem. 42: 855-860 (2004)
  • Ishimaru K. and Kashiwagi T.: Identification of a locus for asynchronous heading in rice, Oryza sativa L.. Euphytica 139: 141-145 (2006)
  • Kashiwagi T., et al.: Locus prl5 improves lodging resistance of rice by delaying senescence and increasing carbohydrate reaccumulation. Plant Physiol. Biochem. 44: 152-157 (2006)
  • Kashiwagi T. et al.: Factors responsible for decreasing sturdiness of the lower part in lodging of rice (Oryza sativa L.). Plant Prod. Sci. 8: 166-172 (2005)

研究のイメージ

染色体断片群の導入によるコシヒカリの複数有用形質の同時改良