生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 研究成果

クローンブタを用いた幹細胞移植治療の評価モデルの確立

研究の目的

組織幹細胞を用いた細胞移植医療は、次世代の再生医療として期待されているが、その臨床応用を実現するためには、有効性や安全性を確実に評価し得る大型動物のモデル系の確立が必須である。本研究では、ヒトへの類似性が高いブタを用いて、幹細胞移植治療評価に利用できる大型動物モデル系の構築を目的する。具体的には、「自家幹細胞移植」のモデルとなり得る体細胞クローンブタを作出し、さらに遺伝子改変あるいは薬剤誘導による病態モデルブタを開発して、それらの動物と独自に樹立したブタ組織幹細胞を組み合わせることで、幹細胞移植治療の前臨床的評価に資する独創的動物モデルを確立する。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 唾液腺由来幹細胞からのクローンブタの作出並びに病態モデルブタの開発
    (◎長嶋比呂志/明治大学農学部生命科学科)
  • ブタ内胚葉系幹細胞の供給と肝・膵臓障害モデルの細胞移植治療
    (遠藤文夫/熊本大学大学院医学薬学研究部)
  • 薬剤誘導による糖尿病モデルブタの作出と幹細胞自家移植モデルの構築
    (高橋昌志/九州沖縄農業研究センター暖地温暖化チーム)

研究の内容及び主要成果

  • インスリンあるいはアルブミン産生細胞に分化可能な、ブタ唾液腺由来内胚葉系幹細胞を樹立した。
  • 前駆脂肪細胞、唾液腺幹細胞から効率的にクローンブタを作出することに成功した。
  • 体細胞クローニングの反復により、第4世代クローンブタを生産することに成功した。
  • ヒト変異型hepatocyte nuclear factor1α遺伝子を導入した、糖尿病モデル・トランスジェニック・クローンブタの作出に成功した。
  • 薬剤(ストレプトゾトシン)誘導によりI型糖尿病モデルブタを作出し得るプロトコールを確立した。
  • 全身性に赤色蛍光蛋白を発現するトランスジェニック・クローンブタの作出に成功した。

見込まれる波及効果

ブタの大型実験動物としての利用は、世界的な潮流であり、我が国においても、基礎医学研究の成果を臨床に「橋渡し」する研究の重要性が認識されている。このようなニーズに対し、トランスジェニックブタ、クローンブタを利用するシステムは、オーダーメイドによる新しい高付加価値大型実験動物の供給を可能にする。

主な発表論文

  • Okumura K., et al. : Salivary gland progenitor cells induced by duct ligation differentiate into hepatic and pancreatic lineages. Hepatology 38: 104-113 (2003)
  • Tomii R., et al. : Production of cloned pigs by nuclear transfer of preadipocytes established from adult mature adipocytes. Cloning and Stem Cells 7: 279-288 (2005)
  • Kurome M., et al. : Production of transgenic-clone pigs by the combination of ICSI-mediated gene transfer with somatic cell nuclear transfer. Transgenic Research 15: 229-240 (2006)
  • Matsumoto S., et al. : Isolation of tissue progenitor cells from duct-ligated salivary gland of swine. Cloning and Stem Cells 9: 176-190 (2007)
  • Murakami H., et al. : Digestive enzyme activities of pancreas and intestinal digesta in streptozotocin-induced diabetic piglets. Animal Science Journal 78: 55-60 (2007)

研究のイメージ

クローンブタを用いた幹細胞移植治療の評価モデルの確立