研究の目的
近年逆薬理学的手法によってオーファン受容体の内因性リガンドが相次いで発見されている。このような内因性リガンドは将来的に創薬や食品産業に直結する可能性が高く、また家畜などの生産への応用も期待される。さらに新規リガンドの生理機能を探索することで、種々の生理機能の解明に繋がる可能性も高い。そこで本研究では、我々が関与したグレリンとニューロメジンUという摂食調節に相反的支配を有する新規ペプチドを用いて、摂食制御機構や摂食と肥満の関係を明らかにする。また、これらのペプチドの新たな生理作用の解明や新規ペプチドの探索を行う。さらに、これらの基礎研究で得た成果を家畜や伴侶動物への応用研究に発展させる。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 新規摂食調節ペプチドの生理作用解明と効率的な食肉生産や伴侶動物の過食症、拒食症への応用
(◎村上 昇/宮崎大学農学部) - 新規摂食調節ペプチドによる生体機能調節機構の解明
(児島 将康/久留米大学分子生命科学研究所)
研究の内容及び主要成果
- グレリン及びニューロメジンUの摂食促進・抑制機構の研究を通して、摂食の中枢性及び末梢性制御機構を明らかにした。
- オーファン受容体FM3/FM4の内因性リガンドとして新規ペプチド、ニューロメジンSを発見すると同時に、そのペプチドの生体時計調節作用、摂食抑制作用及び抗利尿作用を明らかにした。また、新たにデスアシルグレリンの受容体の存在を示した。
- ニューロメジンU、グレリン及びニューロメジンSのノックアウトマウスを作成し、それらのホルモン欠如が生体に及ぼす影響を明らかにした。また、新規な自然発症肥満マウス「Daruma」を発見し、肥満発症機序の一部を解明した。
- 新規生理作用として、グレリンの皮膚、脊髄、及び骨細胞増殖促進作用やニューロメジンUのストレスや痛覚応答への関与を発見した。
- 犬、猫、ヤギのグレリンの構造を決定し、それらの動物への臨床や産業応用への可能性を示した。
見込まれる波及効果
生理活性物質の新たな生理作用の発見や新規生理活性物質の発見は創薬研究を推進し、伴侶動物や産業動物の臨床応用にも多大な貢献をもたらすと期待できる。特に摂食や肥満に関する新たな生理活性物質の発見や機構の解明は産業動物の生産に密接に関係して来ると思われる。さらに、作成した遺伝子改変動物や新たに発見した肥満発症動物は関連分野の研究に大きく寄与すると期待される。
主な発表論文
- Hanada R.,et al.: Neuromedin U has a novel anorexigenic effect independent of the leptin-signaling pathway.Nature Medicine 10:1067-1073 (2004)
- Mori K., et al.: Identification of neuromedin S and its possible role in the mammalian circadian oscillator system. EMBO J. 24:325-335 (2005)
- Ida T., et al.: Neuromedin S is a novel anorexigenic hormone. Endocrinology 146:4217-4223 (2005)
- Moriyama M., et al.: The neuropeptide neuromedin U promotes inflammation by direct activation of mast cells. J. Exp. Med.202:217-224 (2005)
- Nakahara K., et al.: Maternal ghrelin plays an important role in fetal development during pregnancy. Endocrinology147:1333-1342 (2006)