研究の目的
ヒトは人生の3分の1を眠って過ごす。睡眠は心身の健全な発育と健康の維持に必須であり、最も手軽で有効な疲労回復手段である。しかし、24時間社会の日本では国民の約30%が睡眠不足に悩まされている。また、睡眠不足による経済損失は3億5千億円にものぼり社会問題となっている。本研究課題では、この現状の改善に向けて、脳波の周波数や波形解析により睡眠の量と質を解析できる睡眠バイオアッセイシステムを確立し、天然素材の中からヒトが本来持つ睡眠覚醒機能調節を刺激して快眠効果や眠気防止効果をもたらす素材を探索した。
研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)
- 動物睡眠のオンライン型解析システムの構築
- 自然な睡眠や覚醒を誘発する天然素材のスクリーニング
- 睡眠覚醒調節作用を持つ成分の同定と作用機構の解明
(◎裏出良博/財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
研究の内容及び主要成果
- 動物の脳波の周波数や波形解析により睡眠の量と質を解析できるオンライン型睡眠バイオアッセイシステムを確立した。
- 赤外線モニター装置による行動量測定により最終的には204種類の素材のスクリーニングを行なった。その結果、鎮静効果を持つ素材や、覚醒効果を持つ素材を見出した。さらに、これらの効果が認められた素材に関して脳波測定を行った。その結果、睡眠効果が認められた素材7種類と有効成分5種類、また、覚醒効果が認められた素材3種類と有効成分1種類を見出した。
- 睡眠効果や覚醒効果を示した物質の機能性成分の単離に成功し、作用機構を解明した。
- オンライン型睡眠バイオアッセイシステムを用いて新たな睡眠覚醒調節機構の存在を証明した。
見込まれる波及効果
ヒトが本来持つ睡眠覚醒調節機能を促進する天然素材を効率的・高精度に探索し、機能性食品として開発を進めることにより、不眠に悩む人のQOLの向上や睡眠不足により生じる産業事故の減少につながるとともに、新たな健康食品産業の創設が期待される 。
主な発表論文
- Huang ZL. et al.: Adenosine A2A, but not A1, receptors mediate the arousal effect of caffeine. Nat Neurosci. 8:858-859 (2005).
- Huang ZL. et al.: Altered sleep-wake characteristics and lack of arousal response to H3 receptor antagonist in histamine H1 receptor knockout mice. Proc Natl Acad Sci USA 103:4687-4692 (2006).
- Qu WM. et al.: Lipocalin-type prostaglandin D synthase produces prostaglandin D2 involved in regulation of physiological sleep. Proc Natl Acad Sci USA 103:17949-17954(2006).
- Oishi Y. et al.: Adenosine in the tuberomammillary nucleus inhibits the histaminergic system via A1 receptors and promotes non-rapid eye movement sleep. Proc Natl Acad Sci U S A 105:19992-19997 (2008).
研究のイメージ