生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 研究成果

セスバニア-Azorhizobium caulinodans系を用いた根粒成熟の分子メカニズムの解明

 研究の目的

この研究は、非マメ科作物に生物窒素固定能を付与することを最終的な目的として、自然生態系で生物窒素固定の大部分を行っているマメ科根粒の形成メカニズムを解明する。近年マメ科モデル植物ミヤコグサを用いて、Nodファクターを初発シグナルとした根粒形成の初期過程がしだいに明らかとなってきた。この研究ではミヤコグサ系で解明が進められていない後期成熟過程の分子メカニズムを申請者らが独自に開発したセスバニア系を用いて解明を行う。

 研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 根粒成熟・維持機構における根粒菌―植物間の重要因子遺伝子群の機能解明
    (◎小柳津広志および青野俊裕 東京大学生物生産工学研究センター)
  • 植物側の根粒成熟を誘導するシグナル伝達経路の解明
    (◎小柳津広志 東京大学生物生産工学研究センター)

 研究の内容及び主要成果

 

  • 根粒成熟・維持機構における根粒菌―植物間の重要因子遺伝子群の機能解明
    A. caulinodans変異株のスクリーニングの結果、多数の新規遺伝子の根粒形成への関与が明らかになった。そこで、オートトランスポーターである巨大外膜タンパク質、リポ多糖(LPS)合成遺伝子群に焦点を絞った。その結果、オートトランスポーターである巨大外膜タンパク質の欠損は植物の病原応答を引き起こし、これが原因で窒素固定能が低下することから、このタンパク質が根粒菌とマメ科植物の親和性を決定している可能性が示唆された。また、根粒菌のLPS構造の変異は植物細胞中で根粒菌数を低下させることから、この分子も根粒菌とマメ科植物の親和性を決定する分子の一つであることを示した。
  • 植物側の根粒成熟を誘導するシグナル伝達経路の解明
    ミヤコグサの変異株ライブラリーから、無効根粒を形成する株および過剰着生株を多数取得し、それらの遺伝子の特徴および性質の解明を進めた。その結果、新規過剰着生遺伝子Rdh1の欠損は豆果の収量を約50%増加させた。また、IGN1タンパク質は根粒内に多量に生成されるノジュリン遺伝子群の発現を制御していることを明らかとした。さらに、ノジュリン遺伝子群の発現制御には根粒菌のリポ多糖の構造が関与していることを示した。

 見込まれる波及効果

第1の成果は、根粒中に発現されるノジュリンの存在は必ずしも共生窒素固定に必要ないということを示したことにある。このことは、非マメ科植物に根粒形成をさせた場合、根粒菌とマメ科植物の複雑な相互作用を考慮しなくても、窒素固定力を発揮させることができるということを示している。第2の成果は、根粒菌においてはLPSが根粒菌とマメ科植物との親和性を決定する分子であることを明らかとしたことにある。第3に、この研究で取得したミヤコグサの新規な根粒過剰着生rdh1変異株では豆果の収量が約50%増収することが明らかとなり、これが将来マメ科作物の増収のための育種に貢献することが期待される。

 主な発表論文

  • Suzuki S et al: Rhizobial Factors required for stem nodule maturation and maintenance in Sesbania rostrata- Azorhizobium caulinodans ORS571 symbiosis. Appl. Environ. Microbiol. 73: 6650-6659 (2007)
  • Lee KB et al.: The genome of the versatile nitrogen fixer Azorhizobium caulinodans ORS571. BMC Genomics 9: article No. 271 (2008)
  • Suzuki T et al.: An outermembrane autotransporter, AoaA,of Azorhizobium caulinodans is required for sustaining highN2-fixing activity of stem nodules. FEMS Microbiol. Letters 285: 16-24 (2008)
  • Ishikawa K et al.: Isolation of a novel root-determined hypernodulation mutant rdh1 of Lotus japonicus. Soil Sci. Plant Nutr. 54: 259-263 (2008)
  • Yokota K et al.: Rearrangement of actin cytoskeleton mediates invasion of Lotusjaponicus roots by Mesorhizobium loti. Plant Cell  in press (2009)

 研究のイメージ

セスバニア-Azorhizobium caulinodans系を用いた根粒成熟の分子メカニズムの解明