生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 研究成果

糸状菌の低酸素応答機構の解明と利用

研究の目的

糸状菌(カビ)は古くから我が国の醸造・発酵産業にとって重要な微生物であるとともに、近年では、酵素製剤や抗生物質の供給源としても利用されている。一方、これらのプロセスには、酸素の供給(通気)が大きな影響を与えることが知られている。本研究では、通気の変化に伴うカビのエネルギー代謝の変化と調節の分子メカニズムをポストゲノム解析の手法などを用いて明らかとする。また、得られた知見をもとにした代謝工学により、産業上重要なカビの高機能化を行う。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • カビ嫌気的エネルギー獲得機構の分子機構の解明
  • カビエネルギー代謝ネットワークの網羅的解析と高機能化
  • 実用化に向けた基盤技術開発
    (◎高谷直樹/筑波大学大学院生命環境科学研究科)

研究の内容及び主要成果

  • カビが低酸素状態にさらされた時に発現する特異な反応に関わる鍵酵素として、硝酸塩の還元を行うNiaDや元素状硫黄の還元を行うGlrとSR/Trrを発見した。
  • モデルカビAspergillus nidulansのプロテオーム解析を行い、カビが低酸素状態に応答して、さまざまな代謝(ペントース、アミノ酸、核酸などの代謝、ストレス応答)を変化させることを見出した。
  • グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の高発現により、野生型株の2~4倍の?-アミノ酪酸(GABA)を含有する麹菌(Aspergillus oryzae)を作出することに成功した。

見込まれる波及効果

カビには、醸造・発酵産業や物質生産に利用されるものの他にも、作物の病害や穀類の汚染を引き起こすものが数多く知られている。また、家畜やヒトの病原菌も知られることから、カビは農林水産業に密接に関わっているといえる。本研究により得られたカビのエネルギー代謝に関する基礎的研究成果は、これらのカビの生育制御・抑制技術を構築する上で重要である。

主な発表論文

  • Sato, I., et al.: The glutathione system of Aspergillus nidulans involves a fungal specific glutathione-S-transferase. J. Biol. Chem. (2009, in press)
  • Shimizu, M., et al.: Proteomic analysis of Aspergillus nidulans cultured under hypoxic conditions. Proteomics 9: 7-19. (2009)
  • Takaya, N.: Response to hypoxia, reduction of electron acceptors, and subsequent survival by filamentous fungi, Biosci. Biotech. Biochem. 73: 1-8 (2009)
  • Fujii, T., and Takaya, N.: Denitrification by the fungus Fusarium oxysporum involves NADH-nitrate reductase. Biosci. Biotechnol. Biochem. 72, 412-420(2008)
  • Abe, T., et al.: Anaerobic elemental sulfur reduction by fungus Fusarium oxysporum. Biosci. Biotechnol. Biochem. 71: 2402-2407 (2007)

研究のイメージ

糸状菌の低酸素応答機構の解明と利用