生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2009年度 研究成果

イネ胚乳細胞のオルガネラ工学の開発と利用

研究の目的

イネ胚乳細胞の貯蔵オルガネラのタンパク質顆粒とアミロプラストの生成・発達の分子機構を解明し、その知見を応用して「オルガネラ工学」の手法を開発することを研究の目的とした。アミロプラスト分裂の制御法を確立するとともに、タンパク質顆粒の発達が阻害された変異体の米粉の利用法を開発することを目標にした。

研究項目及び実施体制(◎は研究代表者)

  • 胚乳アミロプラストの分裂制御方法の開発
    (◎川越 靖、ユン ミンスウ/独立行政法人農業生物資源研究所植物科学研究領域)
  • 胚乳タンパク質顆粒の生成・発達の分子機構の解明
    (◎川越 靖、恩田 弥生/独立行政法人農業生物資源研究所植物科学研究領域)

研究の内容及び主要成果

  • アミロプラストは葉緑体と異なり、多分裂または出芽で増殖することを明らかにした。
  • イネに特徴的な複粒型デンプンの合成は、アミロプラストの分裂様式と関連することを明らかにした。
  • グルテリンのジスルフィド結合形成にEro1及びPDIL1;1が関与することを明らかにした。
  • PDIL1;1の欠損変異体esp2 ではグルテリン前駆体が分子間ジスルフィド結合を形成し、esp2米粉の製パン特性は野生型よりも優れていることを明らかにした。
  • タンパク質のジスルフィド結合形成に伴って過酸化水素が発生することが明らかになり、活性酸素の発生と胚乳組織の細胞死との関連が示唆された。

見込まれる波及効果

イネに特徴的な複粒型デンプン合成は、アミロプラストの特異的な分裂様式が直接の原因であることが明らかになった。デンプン粒を隔てる隔壁の形成に直接関与する遺伝子が今後の研究で同定されることが期待される。貯蔵タンパク質蓄積の分子機構の解明と利用に関しては、貯蔵タンパク質のジスルフィド結合形成を制御することで、米粉の物性を改善することが可能であることを明らかにした。PDIL1;1の機能欠損変異体 (esp2) を利用した米粉開発では、タンパク質含量の高い品種や、超多収品種と組み合わせた実用品種の開発が期待される。また、貯蔵タンパク質の蓄積(ジスルフィド結合形成)と活性酸素の発生との関連が示唆されたことから、貯蔵タンパク質蓄積の制御によって、米の品質を改善する方法の開発が期待される。

主な発表論文

  • Yun, M.-S. and Kawagoe, Y. : Amyloplast division progresses simultaneously at multiple sites in the endosperm of rice. Plant Cell Physiol.50 : 1617-1626 (2009)
  • Kitajima, A., et al. : The rice α-amylase glycoprotein is targeted from the Golgi apparatus through the secretory pathway to the plastids. Plant Cell 21 : 2844-2858 (2009)

研究のイメージ

イネ胚乳細胞のオルガネラ工学の開発と利用